『何を目指す日本再生か? 今を生きる佼成壮年の役割』 日本総研会長・寺島実郎氏 令和2年次「壮年(ダーナ)総会」の講演から

寺島氏は、コロナ禍を踏まえ、「全体知」の思考や日本の経済構造の変化などについて語った

6月28日、東京・杉並区の大聖堂で開催され、インターネット配信された立正佼成会の「壮年総会」では、一般財団法人・日本総合研究所会長の寺島実郎氏が『何を目指す日本再生か? 今を生きる佼成壮年の役割』をテーマに講演した。その後、寺島氏を囲んで質問形式による討論会が行われた。講演の要旨と討論会の内容を紹介する。

物事を総体的に見る――「全体知」の探求

世界は今、新型コロナウイルスの問題に直面しています。この問題に向き合う時のキーワードは「ウイルスとの共生」です。ウイルスとの闘いでもなければ、ウイルスの撲滅でもありません。

地球上にウイルスを含む微生物が誕生してから約30億年といわれます。それに対して、われわれの直接の先祖である新生人類「ホモ・サピエンス」が現れたのは、約20万年前とされています。ですから、人間はいわば、地球の“新参者”なのです。われわれ人間は、そうした生物としての謙虚さを心のどこかに持たなければいけないと思います。

最近、子供たちにウイルスと人間の関係を説明する時、「“ばいきんまん”なき“アンパンマン”はない」と表現しています。人間は無菌状態で一生を過ごすことはできません。必ず雑菌や、ばい菌、ウイルスに触れるのですが、人間はそれらに対する抗体をつくり、免疫力を高めて、たくましく生きていくものなのです。今回の事態でも、私たちは病原体ウイルスを賢く制御しながら生きていかなければならないのです。

このように、物事を総体的に考える「全体知」の視点が重要です。その点、仏教は「全体知」への思考だといえます。『般若心経』に説かれる「般若波羅蜜多」は、「完全なる智慧(ちえ)の探求」を意味します。そして、『般若心経』の至り着くキーワードが「空」です。

「空」は「無」ではありません。「空」はサンスクリット語で「シャーニャ」(※編集部注 「膨らむもの」の意)といいます。「空」の中に無限大につながるものがある――そのように全体知を探求するところに仏教の深さがあるのです。

そこでウイルスの問題に戻りますが、コロナウイルスによる日本国内の死者数は、世界の中では比較的抑えられています。これは、国民の中間層が厚く、国民皆保険などの社会システムが整い、秩序正しく事態に向き合えているためだと思われます。もちろん、亡くなられる方々の命をおろそかにしてはいけませんが、今後、ウイルス感染の第2波、第3波が来ても、感染防止の努力をしつつ、冷静に、理性をもって事態を「全体知」でとらえていくことが大事だと思います。

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