普門の精神を受け継ぐ 庭野開祖の願い

「法輪」と「富士」、その二つの緞帳(どんちょう)が下ろされ、普門館は11月19日、48年の歴史に幕を閉じた。普門館の解体工事が始まり、いよいよ別れの時を迎える。建物は形を失っても、そこに込められた精神や願いを未来に引き継いでいくことが、多くの人を育んだ普門館への感謝につながる――。昭和45年4月28日の落成式をはじめとした一連の行事での庭野日敬開祖(当時・会長)のあいさつから、普門館建立に込めた願いを振り返る。

「落成式」「こけら落とし」でのあいさつから

円形の外観と3本の相輪塔

普門館は“双環形”をしています。“双環形”とは、円が二つ重なり合った形のことで、そこに私は、仏教の根本的な精神を込めました。

一つの円は、「諸行無常」の真理を表します。生あるものはいつか死を迎え、形あるものはいずれ壊れる。全てのものは変化し、常ないものであるという真理です。

もう一つの円が示す真理は「諸法無我」です。これは、あらゆるものが因縁によって成り立ち、孤立した存在ではないという理(ことわり)を表しています。

この二つの真理が組み合わさってこそ、その中に永遠の生命体、つまりは仏さまのみ心が宿るといえるでしょう。それは、厳然たる事実であり、私たちが厳粛に受けとめるべきことであります。

仏法では、そのような真の安らぎに満ちた大安穏の境地を「涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)」といいます。その「涅槃寂静」の真理を円が重なり合った中央部分に据え、屋上に3本の相輪塔を立てました。「諸行無常」「諸法無我」「涅槃寂静」の三法印を示した外観を造ったわけです。

観世音菩薩を生き方のお手本として

私たち仏教徒は、仏さまの大慈大悲によって生かされていることをお互いに認識し、報恩感謝の気持ちで日々を過ごしています。そうした生き方の模範となるのが、観世音菩薩であると思います。

観世音菩薩は人々にいろいろな働き掛けをし、多くの功徳を与えられました。そんな観世音菩薩に対し、無尽意(むじんに)菩薩が感謝の意を込めて宝物を差し上げようとします。しかし、観世音菩薩は遠慮し、その宝物を受け取ろうとしません。ところが、どうしても差し上げたいと無尽意菩薩は懇願します。すると、とうとう宝物を受け取った観世音菩薩は、その宝物をその場で二つに分け、一つを釈迦牟尼仏に、もう一つを多宝如来に奉られた、と経典には書かれています。

観世音菩薩は、二如来に宝物を分けて差し上げることを通し、仏・法・僧の三宝(さんぼう)に帰依する心を持ち続けることの大事を示してくださっています。つまり、仏さまの理想のごとく行ずる者は、観音さまを含めた僧伽(さんが)とともに、仏さま、そして法に帰依し、いつも報恩感謝の念を忘れてはならないぞ、ということを説かれているのです。

一人ひとりが生きがいある生活を

私たちは仏さま、諸天善神がご照覧のもとで、この世紀の殿堂「普門館」を建立しました。その誇りを胸に秘め、仏さまのみ心を一人でも多くの方にお伝え申し上げることが、私たちの使命でもあります。思想の混乱が渦巻く現代だからこそ、その混乱に巻き込まれることなく、仏さまの大慈大悲をかみしめた、本当に生きがいのある生活を一人ひとりがしなければならないと思うのであります。
(文責在編集部)