核廃絶に向けて 宗教の役割を考えるシンポジウム 上智大学で

核兵器をなくすために新たなチャレンジ

核兵器はこれまで、力の象徴でした。第二次世界大戦が「原爆の投下」で終結した1945年以降、核兵器の保有は国際社会で覇権を握るための要だと長く信じられてきました。ですから多くの国が躍起になって核開発を進めてきたのです。

基調講演に立つ川崎氏

50年前に核の拡散を防ぐために「核不拡散条約」(NPT)ができましたが、NPTは、米、ソ連(現ロシア)、英、仏、中の5カ国のみに核保有を認める非常に不公平な条約です。一方、核兵器国に対しては、核軍縮が義務づけられており、冷戦終結後には確かにその数は一気に減りました。そのペースで減らしていれば、今日までに核兵器をなくすことはできたでしょう。しかし、核保有国はそうしないための理由をさまざまにひねり出し、時代ごとに核兵器に役割を持たせて維持を図ってきたのです。

核保有国が核軍縮の約束を守らない中で、2010年ごろから「核兵器の非人道性」をキーワードにした新たな条約をつくる動きが出てきました。そのキックオフとなったのが、赤十字国際委員会による、「核兵器が使われたら、いかなる国にも壊滅的な人道上の被害がもたらされる」といった趣旨の声明です。

核兵器に関する議論はそれまで、国際政治や軍事の話であり、市民は蚊帳の外でした。しかし、権威ある国際人道組織の赤十字が核兵器の非人道性を訴えたことで、革命的な変化が生じたのです。

核兵器を禁止する条約の成立過程では、核の非人道性に関する複数の決議や国際会議がもたれ、賛成国と反対国によって価値観をめぐる攻防が繰り広げられました。こうしたプロセスを経て2017年、条約交渉が行われ、いかなる場合も核兵器の製造、保有、使用、持ち込み、協力を許さない「核兵器禁止条約」が成立しました。さらに条約では、核保有国に対して完全廃棄のための道筋を示すとともに、核兵器の被害者の権利を規定し、援助のための国際協力を定めています。現在、60カ国が条約に署名し、15カ国が批准(9月20日時点)しました。50カ国の批准で条約は発効されますから、確実に前進しています。

こうした中で、よく言われる批判があります。「条約ができても、核兵器国が批准しなければ意味がない」というものです。実際に核保有国は条約に賛同していません。しかし、オーストリアやメキシコなど、中心となって条約をつくってきた非核保有国の政府や、これに加わるICANは、元々、核保有国がすぐに入ることはないだろうと想定していました。

そうであるにもかかわらず、こうした条約をつくったのは、核保有国が条約に入らなくても、核兵器禁止条約によって核保有国に対する強力な圧力が生まれ、彼らが核を手放さなければならなくなるスピードが一気に加速すると考えているからです。つまり、「核兵器は悪であり、使用は犯罪行為だ」という認識が世界の隅々に行き渡ることによって、政治指導者も企業も、核兵器に携わることが困難になっていくのです。

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