普門館とわたし(4)

普門館は「ラスボス」

小さい頃からロールプレイングゲームが好きで、吹奏楽部で青春を送った私にとって、普門館は「ラスボス」であった。

仲間との絆を胸に、鍛え上げた能力であらゆる必殺技をふんだんに使い、惜しげも無く力を使って倒す「最後の敵」。この「ゲーム」から学んだことは今も心に生き続けている。

高校1年で全国大会を初めて見に行った時、普門館の大きさや雰囲気、黒光りするステージに他のホールには無いものを感じた。まだレベルは足りないが、この舞台に仲間や先生と共に立とうと決心した。たくさん聴いたこの年の課題曲のマーチは忘れられず、今でもコンクールの緊張感が思い起こされる。

高校2年では、惜しくも出場することができなかった。先輩たちの悔し涙をこれからの力にしようと思った。

3年生のコンクールでは、支部大会を突破し、全国大会に初出場することができた。全国大会直前では、学校の体育館で、普門館のステージの寸法に合わせてセッティングしてリハーサルをした。ふと遠くの窓を見つめて、満員の客席をイメージしたものだった。

全国大会当日、普門館に着くと、いよいよここまできたと武者震いした。楽器を準備し、リハーサル室へ移動する。和やかなリハーサルが終わると、舞台の裏へ。パートの仲間とがんばるぞと肩を組んだ。すると先生が一人ひとりに声をかけてくれた。

ステージの上の風景は、不思議にも自分がイメージしたものと似ていた。吸い込まれそうな天井に目を奪われる。仲間を見回して心を落ち着かせた。

先生がアウフタクトを振る。課題曲が始まった。まわりの仲間の音は、普段のホールに比べてあまり聴こえない。だからこそ、確信をもって一音一音を吹いていく。するとハーモニーが決まり、高揚する。次へ次へと音楽は進み、クライマックス。最後は静けさの中に消える。

自由曲。重要なフレーズが上手く決まる。仲間のソロを聴いて幸せな気持ちになる。出番が来て、スフォルツァンドでのハーモニー。今までに聴いたことがないくらいによく響いた。曲は勢いを増して最後の下降音階へ。締めの全員でのハ長調のハーモニーでは熱い気持ちが一丸となった。

割れるような拍手とブラボーの歓声をあとにして、ステージから降りる。外での記念撮影中には「高校生活が終わった」という満足感とともに、「ここで終わらないんだ」という未知なる予感がしていた。

かけだしの吹奏楽指導者となった今、子どもたちそれぞれが音楽に近づけるよう、そして、仲間との一体感を少しでも味わえるよう、音楽のおもしろさや奥深さを自分なりに伝えている。

普門館が、ある一人の少年を音楽の道へ導いてくれた。これからの音楽人生、どんなラスボスが待ち構えているのか。どんな仲間に出会えるのか。そしてどこまで音楽を追求できるのか。冒険は続く。

(神野竜太郎・24歳男性・特別支援学校教諭)