【早稲田大学名誉教授・石田敏郎さん】交通事故を未然に防ぐ心の余裕

ルールを守る思いやり

――道路交通法に基づいたルールの理解が必要なのですね

その通りです。道路交通法は昭和35年の公布以来、何度も改正されてきました。改正の会議には交通心理学の研究者も参加し、事故現場で調査したデータによる交通安全上の知見に基づいた提言を行っています。この法律は“路上通行のマニュアル”であり、それを軸に実際の交通状況への対処法を示したのが交通ルールです。道路交通法の条文はインターネットで閲覧が可能ですし、交通ルールはネットだけでなく、運転免許の更新時に試験場などで渡される交通教本でも学べます。

なお、道路交通法には自転車の運転者と歩行者もこの法律を守る義務があると明記されています。前述のエラーの対処法は自転車の運転者や歩行者にも応用できますので参考にしてみてください。

――路上で最も気をつけるべき場所は?

交差点です。全事故の半数以上が、車や自転車の運転者、歩行者などが複雑に入り交じる交差点とその付近で発生しています。

自動車の運転中に、交差点の信号が青から黄色に変わる時、交差点の手前で止まるか進むかの判断に迷ったことはありませんか。交通ルールでは、自動車は黄色信号で交差点内に入らずに、交差点内にいれば速やかに外へ出ることが基本です。黄色で加速し、全赤(交差点の両方向の信号が同時に赤の状態)のうちに通過するという解釈は交通ルール違反です。

また、信号機のない交差点での事故が、全ての交差点事故の6割を占めています。一時停止の標識で停まらない車の多い状況も、事故を引き起こす要因として見過ごせません。一時停止線の直前でタイヤの回転を完全に止め、3秒程度経って発進しなければならないのは、見通しの悪い場所での事故を未然に防ぐためです。自動車などが来なければ停止線で停まらずに通過する違反行為は大事故を誘発します。

――交通事故防止のため、自転車の運転者や歩行者が注意する点は?

両者とも信号は守らなければなりません。自転車は自動車などの車両と同じ扱いですから、一時停止を守るのはもちろんのこと、夜間の無灯火や合図をする時ではない片手運転もしてはいけません。ヘルメットもぜひ着用してください。自転車の運転に関する講習会や教室を設ける自動車教習所が増えてきたので、ルールを学びに行くのも良いと思います。

歩行者は路上で最も弱い立場ですから、信号待ちでなるべく車道から離れるなど、身を守る行動を最優先にしてください。基本的に道路の右端を歩き、斜め横断もしないようにしましょう。

路上で交通マナーの悪い人に出くわすと感情的になるのも人間の心理です。でも、怒りに任せた運転は事故に直結しかねませんし、誰一人として亡くなってもよい命などありません。事故防止のためにドライバーが心に余裕を持って安全運転に徹するのは大前提ですが、自転車の運転者や歩行者の協力も重要です。互いに思いやりの気持ちを持ち、交通安全の意識が高まれば、ヒューマンエラーは減り、事故も死者もゼロに近づいていくと思います。

プロフィル

いしだ・としろう 1946年、東京都生まれ。早稲田大学名誉教授。交通心理学、安全人間工学が専門。運転行動とヒューマンエラーのかかわりについて長年、研究を進め、日本交通心理学会会長などを歴任。著書に『交通事故学』(新潮社)がある。

インタビューコーナー「閃言万語」

佼成新聞(紙面版)「閃言万語」のインタビューを紹介します。

4月より、紙面版のインタビューコーナーのタイトルを、「言葉を尽くして言うこと」との意味を持つ四字熟語の「千言万語」に「閃(ひらめ)く」という漢字を重ねた「閃言万語」に改めました。今後も多彩な社会事象をテーマに、読者の日常生活でさまざまな気づきにつながるインタビューを掲載していきます。