第39回庭野平和賞贈呈式 マイケル・ラプスレー師記念講演全文

ロシアによるウクライナ侵攻は悲劇です。ウクライナだけでなく、ロシアの人々にとっても悲劇です。ロシア国内の信仰者、とりわけ一般の聖職者が戦争反対を表明している姿を見ると、心強く感じます。長期間の投獄の危険にさらされながらも、ロシア各地の都市には戦争反対と平和を訴え続けている人々がいるのです。戦争などによるトラウマが、のちに心的外傷後ストレス障害(PTSD)として発症することが心理学者によって明らかにされています。良心に反する行為の結果として生じる心的外傷について、多くのことが語られるようになりました。私たち伝統宗教の多くは、「人は皆、聖なるものを宿しており、他者への攻撃は他者に内在する聖性のみならず、自己の内なる聖性への攻撃となる」ことを説いています。

良心の呵責(かしゃく)や心の傷は、飲み薬では治せません。罪を告白し、懺悔し、過ちを償って生きることでしか癒せないのです。

ロシア兵もウクライナ兵も、今後何十年も良心の呵責や心の傷を抱えて生きていくに違いありません。その傷は、将来の世代にも受け継がれていくことでしょう。

それは、南アフリカ国民にも、日本人にも、そのほかの世界中の人々にとっても同じです。

今日再び、私たちは核戦争の脅威に直面しています。庭野平和財団創設者の庭野師は、かつて核軍縮を訴えスピーチをされました。

軍国主義を経験し、かつ原爆による深い傷をその記憶に留(とど)める唯一の被爆国として、日本は核軍縮に向け新たな世界運動を支援すべき特別な立場にあります。

また、こうした運動は日本政府と同じく、庭野平和財団にも支援していただけるものと思います。

気候変動の危機は、私たち人類は母なる大地に対し、宣戦布告をしてしまったのだと教えてくれています。それは地球の苦痛の叫びでもあります。母なる地球が生き延びるために、人類の存在は必要ないでしょう。

私たちはボリビアの例に倣うべきかもしれません。「母なる大地は、次の諸権利を有する――生命、生命の多様性、水、清浄な空気、安定、修復、汚染のない状態を享受する権利」。ボリビアは2010年12月、社会が守るべき義務として「母なる大地法」を制定しました。

私は信仰者としてしばしば自問しています。神は私たちのためにどんな夢を抱いておられるのか、神が抱く夢に私はどうすれば協力できるのか。

私は信仰の眼(め)を通して、全ての人々の内に神を見、そして全ての被造物を神の一部として体験するよう努めています。

私たちは皆、平和を生み出すために呼ばれた助産師だと思います。歴史が負った傷を癒し、変革的正義に向けての活動を通して、平和を生み出すのです。

受賞の報(しら)せを受けたときにも申し上げましたが、私の父は第二次世界大戦中、対日戦線の兵士として従軍しました。ある日、母がこう言いました。戦争に行く前の父と、戦争から帰った父は別人のようだったと。

今日、天国から父は、私、そして皆さんに微笑んでくれているものと思います。

 生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも

ありがとうございました。