第39回庭野平和賞贈呈式 マイケル・ラプスレー師記念講演全文

受賞記念講演でラプスレー師は、差別や暴力に苦しむ人々の現状を説明し、平和への願いを語った(「YouTube」の画面)

6月14日にオンラインで開催された「第39回庭野平和賞贈呈式」の席上、受賞者のマイケル・ラプスレー師が記念講演を行った。全文を紹介する。(文責在編集部)

ラプスレー師記念講演 『地獄の中で癒しを生み出し続ける』

『生ましめんかな』

こわれたビルディングの地下室の夜だった。
原子爆弾の負傷者たちは
ローソク1本ない暗い地下室を
うずめて、いっぱいだった。
生ぐさい血の匂い、死臭。
汗くさい人いきれ、うめきごえ
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
この地獄の底のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。
マッチ1本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が生ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも
(栗原貞子氏作、1945年)

この詩を私に教えてくださった広島の友人、中村朋子広島国際大学教授に感謝いたします。

戦争の終結を願うとともに、戦争で亡くなった全ての人々のために、そして過去の行為に今も心を苛(さいな)まれている兵士たちのために、お話しをさせていただきたいと思います。

親愛なる友人の皆さま、はじめに、庭野平和財団の創設者である庭野日敬師に敬意を表したいと存じます。本日の催しは、庭野師の遺志が今も脈々と生き続けていることの証しであり、過去の38人の受賞者の顔ぶれは、平和構築と宗教協力の取り組みが、無数の人々によりあらゆる時と場所で豊かに織りなされてきた歴史を物語っています。

受賞者の一人、偉大なるカトリック神学者ハンス・キュング博士は、次の言葉を残しています。

「宗教間の平和なくして国家間の平和はない。宗教間の対話なくして宗教間の平和はない。宗教の根本を探究することなくして宗教間の対話はない」

本日は第39回庭野平和賞を受賞し、身の引き締まる思いです。この賞は、記憶の癒(いや)し研究所とそのグローバルネットワークに関わる全ての人々に等しく授与されるべきものです。私たちの道のりには、数多くの仲間がいました。

歴史が負った傷を癒すことは、私たちにとって喫緊(きっきん)の課題であり、「記憶の癒し」はそこに焦点を当てています。過去を認めながら過去にとらわれないためにはどうすればよいか。被害者が加害者になる連鎖を断ち切るにはどうしたらよいか。

まさに「記憶の癒し」とは、憎しみ、復讐心(ふくしゅうしん)、恨みをはじめ、心の中のさまざまな毒素を取り除くためのプロセスなのです。

歴史の語り部を支え、安全な空間を作り、「平和の出産」を助ける「助産師」――それが私の望んでいる「記憶の癒し」ファシリテーターの役割です。