第39回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長挨拶

庭野名誉会長©2022 Niwano Peace Foundation

6月14日にオンラインで開催された「第39回庭野平和賞贈呈式」の席上、庭野平和財団を代表して庭野日鑛名誉会長が挨拶に立った。全文を紹介する。(文責在編集部)

庭野名誉会長挨拶

「第三十九回庭野平和賞」の贈呈式にあたり、挨拶を申し上げます。

この贈呈式は、今年もオンラインでの開催とさせて頂きました。受賞者をお招きできないのは大変残念ですが、新型コロナウイルスの感染が続いていることを考慮した対応ですので、ご理解を頂きたいと思います。

本日は、このようなオンラインによる贈呈式にもかかわらず、大変大勢の方々がご参加くださいました。

皆さま、誠にありがとうございます。

今年度の「庭野平和賞」受賞者は、南アフリカ共和国の聖公会・司祭であられるマイケル・ラプスレー師でございます。選考にあたられた庭野平和賞委員会の皆さまに、深く敬意を表し、お礼を申し上げたいと存じます。

只今、贈呈理由をお話し頂きましたように、ラプスレー司祭は、アパルトヘイトなどで傷ついた人々の記憶に耳を傾け、寄り添い、希望を見出していく「記憶の癒(いや)し」ワークショップを主宰されています。

その活動は、現在、世界各地におよんでおり、参加者も、差別や不正に苦しめられた人々、家庭内暴力、犯罪による暴力、あるいは政治的な暴力の被害者、退役軍人、収監者など、さまざまであります。

過酷な経験による強い精神的ストレスは、人によっては一生ぬぐい切れないほどの心の傷を残します。しかも多くの場合、その苦しみ、悲しみは、他者に伝えられることはなく、心の内側にしまい込まれたままです。

日本での象徴的な例をお話ししたいと思います。第二次世界大戦末期、広島と長崎に原子爆弾が落とされたことは、ご存知の通りです。

その戦禍から、今年で七十七年もの年月が経ちます。ところが、いまだに被爆体験を一切語ろうとしない人が大勢おられます。それほどまでにつらい経験をされ、深い心の傷を負い、それが癒されないまま、今日に至っているということであります。

「記憶の癒し」ワークショップは、そうした耐えがたい記憶に苦しむ人々に、過去の出来事を安心して話すことができる機会と場所を整え、提供する活動といえます。

そこには、信頼できる人々がいて、信仰に根ざした温かい雰囲気が醸し出され、その中で、互いに自らの体験を語り、傾聴し合うのであります。

人の心を癒す中心には、主に二つの事柄があるといいます。

一つ目は、自分に起きたことの恐ろしさを認められ、理解されることです。

もう一つは、自分の安否を気遣ってくれる人々の存在を身近に感じられることであります。

「傷ついた過去の出来事を、自らの物語として語ることで、まるで解毒するような働きとなり、癒しへと促すことができる」とラプスレー司祭はいわれています。