WCRP創設50周年記念式典・シンポジウム 『Our Heart for All Beings~宗教協力の新たな扉~』をメーンテーマに (動画あり)
第一部の記念式典では、「平和の祈り」「WCRP50年の歩み」のビデオ上映に続き、庭野会長が開会挨拶に立った。
庭野会長は、第1回世界大会の開会式が開催された同ホールはWCRP/RfPの“発祥の地”であると紹介。宗教協力が困難と見なされていた半世紀前に、世界大会を実現させた先達の情熱と深い祈りに、謝意を表した。
さらに、同式典を機に原点に立ち返り、先達の願いと精神を受け継いで、新たな実りに結びつけていくことが後進に託された使命と強調。同日本委の諸活動に触れ、「各界との連携を深め、より開かれ、より行動的なWCRP日本委員会を目指してまいりたい」と述べた。
日本宗教連盟(日宗連)の大柴讓治理事長、WCRP/RfP国際委員会のアッザ・カラム事務総長、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長が来賓挨拶(カラム氏、山下氏はビデオメッセージ)。諸先達への追悼の献花に次いで、ピアニスト・平山晶子氏とシンガーソングライター・まほろば遊氏による「被爆ピアノコンサート」が行われ、第二次世界大戦中に広島で被爆し、その後に再生されたピアノが奏でられた。
続く第二部の「記念シンポジウム」では、人類学・霊長類学者で京都大学前総長の山極壽一氏と宇宙飛行士の山崎直子氏が基調講演に立った。
『共感能力の進化とコロナ後の社会』と題して講演した山極氏は、霊長類の種による集団(群れ)の規模、コミュニケーションの取り方や子育ての違いを比較し、脳の進化について詳述。ゴリラやチンパンジーといった類人猿が自己の利益のために行動する一方、人間には進化の過程で、誰かと一緒に食事する「共食」や共同保育によって自身の利益を損なってでも集団に尽くす奉仕の精神が生まれ、共感能力が養われたと述べた。
また、情報通信技術(ICT)にも言及し、ICTの開発は、脳の「知能」分野だけを人工知能(AI)として発達させたもので、「意識」の領域を置き去りにすることで情緒的社会性の希薄化が進んでいると指摘。人間の遺伝子を組み換える研究も行われており、デジタル社会は経済的・社会的だけでなく、生物学的な格差を生む危険性があると警鐘を鳴らした。
その上で、今後も感染症の予防を意識した生活を心がけつつ、スポーツや共同作業などで五感を生かした交流を行うことが、「人類が進化する上で達成した“共感力”を生かした社会をつくることにつながる」と語った。
山崎氏は、国際宇宙ステーション(ISS)内部の様子や宇宙から見た地球などの写真をスライドで紹介しながら、ISSに滞在した体験を紹介。国籍や文化、思想の違う者同士が命の危険と隣り合わせの宇宙空間で協力して生活するには、使ったものは元の場所に片付ける、「おはよう」「ありがとう」といった挨拶を行うなど人としての基本的な行為が最も重要と語った。
また、細菌や細胞の集合体である人間と同様に、宇宙から見た地球は、そこに存在する全てのいのちが集まった一つの生命体と認識できると説明。人体が多くのいのちの調和によって存在し、保たれているように、地球も、さまざまな分断や対立を乗り越えるために、「危機感を共有し、対話を進めていくことが欠かせない」と訴えた。また、人間が宇宙に行くことは、地球の目や耳として、地球の現状を把握し、未来につなげていく役割を担っていると述べた。
その上で、対立ではなく寛容の精神で世界平和の実現を目指してきたWCRP/RfPに対し、「私たちにとって大きな希望」と敬意を表し、自身も宇宙という視点から「世界平和を模索し続けていきたい」と語った。
続いて「宗教者からの応答」としてパネルディスカッションが行われた。山極、山崎両氏に加え、秋葉山本宮秋葉神社の河村忠伸権宮司、妙智會教団の宮本泰克事務局長、金光教泉尾教会の三宅薫教師、日本聖書協会の森脇百合主事補が登壇。北法相宗音羽山清水寺の大西英玄執事補がコーデイネーターを務めた。
今後10年間の行動目標となる「WJアジェンダ2030」発表
この後、同日本委の今後10年の活動と運営の方向性(ビジョン)を定めた「WCRP日本委員会(WJ)アジェンダ2030」が発表された。この中で、諸宗教ネットワークや草の根のコミュニティ活動の強化、気候危機や非武装への取り組みなど六つの重点行動が示された。
閉会挨拶に立った植松誠理事長(日本聖公会主教)は、冒頭、同式典に出席予定だった同日本委名誉顧問の森川宏映第二百五十七世天台座主が11月22日に遷化したことに、哀悼の誠を捧げた。
また、東西冷戦下で各国の核(兵器)開発競争が激化し、戦争や紛争が絶えなかった創設当時の国際情勢を述懐。諸宗教の連帯による組織の礎を築いた先達の功績に敬意を表明した。さらに、「WJアジェンダ2030」に触れ、これを実現するには、さらなる協力とアドボカシー、祈りを結集することが必要と述べ、諸宗教協力による取り組みの一層の推進を誓った。