第36回庭野平和賞贈呈式 ジョン・ポール・レデラック博士記念講演全文
終わりに
今日、“橋”の代わりに“壁”をつくることを良しとする政治を、さらに恐れに突き動かされ、憎悪に根ざした排他的な政治の台頭を、私たちは目の当たりにしています。しかし、恐怖心を転換できるのは愛だけです。私たちは、共通の人間性に気づき、仲間意識に目覚めることによってのみ、人々を分断する深い溝に橋をかけるために必要な創造力と勇気を発揮することができるのです。
私たちは、世界の安全保障が壁の高さや武器の量によって決められるのではなく、私たちの人間関係の質の中に存在するのだと確信する勇気を持たねばなりません。
ここで色あせることのない芭蕉の智慧を、最も有名な一句からご紹介します。
蛙飛びこむ
水の音
私たちはそこに、時代の変化を耐え抜いた智慧を感じます。
初心に宿る不思議な力を感じます。
より深く素直に聴こうと傾けられている「心の耳」の働きを感じます。
全きものの存在と癒やしを感じます。
人間精神を育む充足した美を呼吸するがごとくに感じます。
私たちが共有する人間性を感じます。
私たちは、このかけがえのない惑星に生を享(う)けたことに感謝し、畏敬の念を有して謙虚になるからこそ、自らその恵みと優しさを求め、それを他のものに与えようとするのです。
改めて庭野平和財団に対し、心より感謝の意を表します。この表彰は、私たちの愛する地球家族が、憎しみと分断を超えて、真の癒やしをもたらす絆を醸成しようとする努力に対し、多大な励ましを与えてくださいました。
精霊の導きにより、将来世代の人々に癒やしと全体性の遺産を残すことができるのは、共に地に根を下ろした私たちだけである、その不動の信念を持って、これからも取り組んでまいります。