第36回庭野平和賞贈呈式 ジョン・ポール・レデラック博士記念講演全文

私たちの美しき人間性の完全な豊かさ

最後に一つの提言をさせて頂きたいと思います。多様性がもたらす恩恵を結集することができなければ、私たちが複合的な地球のその脆弱さに対応することは不可能です。

暴力を乗り越えた地域社会から私が学んだのは、平和構築とは一人の人間の問題ではなく、いかにして社会全体が一体化し、共に立ち上がって課題に取り組むかである、ということでした。こうした地域社会は、動員できる全ての人的資源を大切にし、公平性を尊重しながら予想外の協力関係を築き、困難を生き延びた者の直感的で鋭い洞察力に導かれていました。そして勇敢で、困難から立ち上がる力を持った青年や女性たちのリーダーシップを認め、それに従うことによって、数々の革新がもたらされてきたのです。

もし平和構築が、生存に関わることを取り扱う際は、私たちの行動の全てがシンプルな50対50の原則に沿ったものでなければならないと、私は確信します。それは、決定権を持つ指導者の50%が40歳未満の青年であること、50%が女性であること、という原則です。

ネパールで森林保護に取り組む「森林利用者グループ連盟」という小規模な団体が、この原則を採用し、全てのグループにおいて、決定権を持つ指導者の男女比が50対50となるよう求めました。ほんの一握りの人数から始まった連盟でしたが、今や数百万人が加盟する全国的なネットワークへと成長を遂げ、組織のあらゆるレベルの活動にこの原則が適用されています。また、ケニアでは「ワジールの女性たち」という名称の団体が、明晰(めいせき)で実務の才気にあふれた女性たちの活動によって、北東ケニアの長年にわたる暴力の構造を変容しました。そして、コロンビアの「ルタ・パシフィカ・デ・ムジェレス」という団体の女性たちは、「平和のための女性の行進」と称する卓越した活動を通して、人々の声、記憶、そして希望を結集し、地域社会と国民的合意に大きな影響を与えました。

青年たちにも同じことが言えます。人類の歴史における最も重要な動きと発展のいくつかには、共通の驚くべき事実があることに、私は注目しています。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが、かの有名な「私には夢がある」という演説をしたのは、彼が34歳の時でした。女性平和運動家のレイマ・ボウィは30代前半の時に「平和のための女性リベリア大衆行動」を共同で主導し、第二次リベリア内戦の終結に貢献しました。

また忘れてはならないのは、私たちの宗教伝統についても関係があります。キリスト教を生んだイエス・キリストの宣教は、彼が30歳の時に始まりました。そしてブッダ(釈尊)は30代半ばで悟りを開いたといわれています。

こうした事例に見られる驚くべき転換は、私が「あいだの智慧」(世代間の智慧)と呼んでいるものから生まれてきました。非常に多様な人たちが他の人たちの声に大いに耳を傾け、互いに励まし合い、勇気ある行動に共に身を投じることによって、世代を超えた協力体制が築かれ、これまでにはなかったひらめきと飛躍的な進歩への突破口が現れたのです。

ただ数だけを合わせるような取り組み方では、50対50の指標に到達することはできません。私たちは、豊かな創造の恩恵と、旅路を歩む美しき人間性を互いに引き出し、集結させなくてはなりません。なぜなら、私たちそれぞれの可能性の全てを持続的に結集させることによってのみ、私たちは今世紀の課題に立ち向かい、乗り越えていく道を見いだすことができるからです。