第36回庭野平和賞贈呈式 ジョン・ポール・レデラック博士記念講演全文

「地球的」人間性

暴力を生き抜いた地域コミュニティー、すなわち癒やしの変化をもたらした先駆者たちに共通しているものは何か。それは、彼らが「自身の敵をも含めた人間関係の網の目の中に、自らもいること」を知っているということです。

コロンビアのあるグループは、このことを「私たちには敵という存在はない」という言葉で表現し、また南スーダンの青年たちのグループは、「私たちは一人の母を持つ64の部族である」と表現しています。分裂をはるかに超えたところに存在する、全ての人に共通する人間性を観(み)ようとする時、そうした想像力は開かれていきます。彼らは無限の愛と境界線のない親密な関係性を築くことによって、人類を一つにする方法を発見したのです。

霊性や宗教の起源となる物語の中に、とりわけ地域古来の智慧の中に、同様な精神の働きを見ることができます。生命や創造物の脆弱な美に向けられる感謝と畏敬の念からは、謙虚さや思いやり、愛が生まれます。そしてまた、「自分が他にしてほしいことを、自らも他に対して行わなければならない」という、明確な倫理も示されてくるのです。

ローマ教皇ベネディクト十六世の言葉にあるように、この倫理は、私たちが再び人間性を取り戻す経路として、また私たちに共通する人間性に触れる能力として、「心の耳を傾ける」よう私たちをいざないます。コロンビアのマグダレナ・メディオに暮らす私の友人は、「自分たちを理解してくれない人たちを、こちらから理解するよう努めよう」と言います。

メノナイトの伝統には、「信仰とは、言葉よりも、奉仕や慈悲、そして愛を実践する生き方を選択すること」という教えがあります。メノナイトの教えの実践においては、私たちを傷つけようとたくらむ人たちを含めた他者にどう向き合い、手を差し伸べられるかという点に、人類に向けられた神の愛の特質が最も明確に示されると教えています。

信仰の深奥から湧き起こる志は、障害や境界を超えて歩みを進めていくためのインスピレーションを私に与えてくれました。人類へ向けられた、境界線のない、広大で大胆不敵な神の愛は、多様性の恵みに気づき、そこから学ぶこと、互いの傷を超えて今まで不可能と思われた永遠の友情を築くこと、そして自分たちとは意見が合わない人たちを恐れずに理解しようと努めることへと、私たちを駆り立てます。違いや対立の真っただ中にいる時、私は他の人を裁くのではなく、課題に向き合い暴力に代わる方法を共に探すようになっていました。

こうしたことの理解は、宗教協力に取り組む智慧を与えてくれます。なぜなら、そこには地球に根ざした平和構築を考える精神的資質が存在するからです。私たちにとって最も重要な課題は、境界や限界を超えて考え、行動することなのです。

障壁を設けても、伝染病の蔓延(まんえん)や人間による生態系や気候の破壊を止める力がないことは明らかです。国境には、生活の安寧や帰属を求めて移動する人たちが抱える問題に対処できるような力はほとんどありません。国境は、アイデアや、リアルタイムで交わされるコミュニケーション、科学技術の流れを止められないばかりか、収奪的な世界経済の流れを止めることも不可能です。国境線だけでは、絶え間ない武器、麻薬、そして人身取引の流れを阻止できないことは証明済みのことであります。

今日分断化された世界には、苦しみを抱えている人や、生活の場を追われた人たちがあふれています。私たちに求められるのは、紛争や恐怖の中であっても、人間らしさを取り戻し、地にしっかり根を張って互いが強い絆で結ばれるために必要な資源です。

今、この惑星では、いかなる国も、外国の最も弱い立場にある人たちの幸せを等しく考慮することなしには、自国民の幸せを保証することはできません。

こうした課題に立ち向かうために、思いやりと勇気に満ちた社会をつくり上げることが必要です。そのためには、多様な人間関係に対応しながら、互いの平等性と尊厳性を保証し、(精神的な)奥深くにある力を粘り強く育てなければなりません。それこそが、真の意味で私たちの傷口を縫い合わせ、帰属の権利を実現し、人類として団結する道なのです。