笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(12) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)
イラスト/中村晃子
『寝る子は育つ』
秋の夜長、残暑も去り、過ごしやすい季節になると、ついつい夜更かしをしてしまいます。夏は暑くて寝苦しく、冬は寒さで寝つくのに時間がかかります。一方、春には「春眠暁を覚えず」という言葉のようによく眠れるかというと、実はそうでもありません。この季節には、激しい気温差に体がついていけず、自律神経が乱れやすくなる上に、4月に新年度を迎え、環境の変化によって大きなストレスを抱える人も多いのです。健康にとって睡眠はとても重要であるにもかかわらず、1年を通して上質な睡眠を確保することは簡単ではありません。だからこそ、質の良い睡眠を得るための努力が必要になります。
最近では睡眠の研究が進み、睡眠不足による弊害が知られるようになりました。私が睡眠に興味を持ったきっかけは、自分自身のダイエットです。学生時代はスポーツをしていたものの、社会人になって筋肉量が落ちて痩せ、その後に太り始めました。運動すれば痩せられるはずと簡単に考えていましたが、そうはうまくいきません。どんどん太り続け、気づけば体重は20歳の頃の1.6倍にまでなってしまいました。いろいろ勉強を重ねて分かったのは、私の場合は寝不足が大きな原因だったということでした。
私は、20代の後半から、寝るのが下手になりました。眠くなければ寝なくてもいいとさえ思っていました。今考えると、25歳で自分の会社を始め、仕事上、経営上、人事面とさまざまなストレスを抱え、眠れなかったのです。性格は楽天的ですから、日中はガンガンとコーヒーを飲み、夜中までガツガツ働きました。仕事をしない夜は、深夜まで飲み歩き、たまに家で静かにできる日には、大好きな小説を読んで、やはり寝るのは夜中です。平均すると、睡眠時間は5時間を切っていました。
ある実験では、毎日4時間しか寝ないと、1日に300キロカロリーも余分に食べたのと同じで、月に1.5キロ太り、内臓脂肪は11%増加するという結果が出たそうです。睡眠不足が糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病と関連していることは、いろいろな研究結果から分かっていますが、さらに、寝ないだけで体重も増えてしまうのです。
また、睡眠が6時間以下の人は、7時間以上の人と比べ、がんの発症リスクが40%も高いという研究結果もあります。認知症リスクに至っては、睡眠が6時間以下の人は4倍も高いのです。睡眠不足は脳の健康をも損ないます。
「寝る子は育つ」と言われるように、睡眠により成長ホルモンが分泌されます。子供だけでなく大人にも高齢者にも、この成長ホルモンがとても大切です。睡眠によって脳の機能を回復することで、認知症の予防にもなります。成長ホルモンで免疫力を強化し、代謝を上げることで、病気にかかりづらくなり、体の早い回復も期待できます。また、骨の老化を防ぐこともできるので、骨粗しょう症予防や骨折予防にも効果があります。もちろん美肌にも睡眠は欠かせません。
日本人は世界的に見て、睡眠時間が短いと言われます。1960年代に比べて現在は1時間も短くなっているそうです。健康的に過ごすためにも、7~8時間の睡眠を確保しましょう。
睡眠不足の解消には、食べ物や眠る部屋の環境も大切ですが、やはり運動が一番手っ取り早く、すぐに効果がでます。睡眠にはストレス解消効果もあるのですが、笑いにもストレス解消効果があります。「笑トレ」は、時間貧乏な人には一石二鳥の運動。私も今では6時間以上の睡眠が確保できるようになり、あと1時間プラスすることを目標にしています。
今回の体操は、「ジョギング笑い」と「懸垂笑い」です。忙しい人のために、二つとも短時間で効果が得られるものです。朝一番や座りっぱなしの時、また日中に眠気を感じた際などにやってみてください。
プロフィル
たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。