笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(1) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)

イラスト/中村晃子

笑いながら運動すると脳は「楽しい」と錯覚

「まさか!」と思うような想定外のことが、現代社会では連続して起きています。

大地震や洪水といった自然災害、経済格差による貧困問題、そして、この日本でも、殺人・虐待・いじめといった痛ましい事件が頻繁に起き、そうした情報に触れるだけでストレスを感じます。終息の兆しが見えないコロナ禍も、人々の心身に大きな影響を及ぼしています。インターネットの普及で情報が溢(あふ)れ、その取捨選択が困難なことも一因となっています。

ストレスは、心の不調だけでなく、がんや脳卒中、高血圧、片頭痛、胃腸系の疾患などさまざまな疾病を引き起こします。不眠、肥満、肩凝り、過度の飲酒といった未病の要因でもあります。今のような時代において、ストレスを上手にケアし、病気や不調から自分の身を守る方法を知っておくことは、心身の健康を保つとともに、人生を豊かにすることにつながります。

ストレス解消法はいろいろありますが、一石二鳥にも三鳥にもなるのが「運動」です。運動は生活習慣病を予防し、寝たきりや死亡率を大きく下げ、脳の機能を高めます。しかし、いくら運動が大切と分かっていても、時間が取れない、動くことが苦手・嫌い、近所に運動できる場所がない、病気や痛みがあるなどさまざまな理由で、なかなか行動に移せないものです。厚生労働省の示す運動習慣の目標値を満たしている人は、成人者の3分の1程度だそうです。

そこで、この連載では一番簡単な運動として「笑(わら)トレ」を紹介し、ストレス解消と健康増進に役立てていただきたいと思います。

笑いは内臓のマッサージ

笑トレは、笑いを呼吸法に見立てて、「ハハハハ」と息を吐きながらストレッチや有酸素運動を行うものです。インド生まれの「笑いヨガ」をベースにし、筋トレや体操と組み合わせた独自のトレーニングです。笑いながら運動することで、脳は楽しいと錯覚し、楽に体を動かすことができるのです。

基本の動き(クリックして動画再生)

また、笑いは内臓のマッサージともいわれ、血液循環が良くなり、酸素と栄養が全身に運ばれることで、内臓の働きが活発になったり、冷えが改善したりします。脳の血流が向上して頭がすっきりするだけでなく、脳内の神経伝達物質の幸せホルモンが分泌されるため、笑トレを続けているとポジティブな気分になりやすくなります。

私はこれまで、「笑い」に関する仕事をしてきました。笑顔が自然と溢れ出るような空間設計から始まり、海外からストリートパフォーマーを招聘(しょうへい)するイベントプロデューサー、ケアが必要な人に笑いを届けるケアリングクラウン(道化師)を経て、2009年、笑いヨガに出合い、衝撃を受けたのでした。笑いの素晴らしい効果が簡単に、しかも全部得られる笑いヨガに、私は夢中になりました。大学院で老年学を学び、高齢者の笑いを研究していたこともあって、笑いヨガに改良を加えた笑トレを開発し、今までたくさんの人の元気をサポートしてきました。

医者は「病気の専門家」ですが、「健康」は医者だけではつくれません。まして、「元気」をつくるのは自分自身です。「元気」とは元の気――つまり生まれたての赤ちゃんの生命力のこと。誰もが生まれた時に持っていた元気を笑トレで取り戻し、笑いによって心も身体も最適な状態に整える方法を、この連載でお伝えしていきます。ぜひ、私と一緒に笑ってください。

プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。