TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトクラリネット・瀧本千晶さん Vol.2

落ち込んではいられない――腹をくくった大学生時代

――進学先の東京藝術大学では、思い描いたような毎日を?

いえ、それほど甘くはありませんでした。自分を含め、クラリネットの同期生は5人でしたが、入学してすぐ、同期生と私との音楽の知識の差に愕然(がくぜん)としました。授業中、ある曲が流されて、私は、「この曲、テレビで聴いたことある!」と喜々としていたのですが、それは、音大生なら知っていて当然と言えるほどポピュラーな曲で、恥ずかしくなったという経験があります。同期生との会話の中で、知らない曲や作曲家の話題になったら、知ったかぶりをして、なんとかその場をしのぎ、こっそりスマホで調べて、話を合わせるなんていうこともしょっちゅうありました。私以外の同期生は、プロのクラリネット奏者が主宰する演奏合宿に参加した経験があったり、大学の先輩とすでに顔見知りだったりしていました。彼らは「音楽家の卵」としてのオーラを放っているように見え、一方、自分は「吹奏楽だけしかしてこなかった人」と卑下する気持ちが湧き、〈なんで、ここに来ちゃったんだろう〉と気落ちしましたね。

――気持ちの立て直しはどのように?

単純に、〈入ってしまったのだからもう、もう、やるしかない〉と腹をくくったことですね。知識が足りないなら補えばいい――そう気持ちを切り替えて、分からないことはそのままにせず、同期生や先生をつかまえてとにかく聞くようにしました。また、作品の背景や作曲家の歩みといった知識を一から頭にたたき込みました。幸い、同期生たちとの仲も良かったですし、授業でのレッスンは楽しく、次第に演奏が上達していくのが実感できたので、心が折れることはありませんでした。

――プロの演奏家を志すきっかけは?

大学3年生の秋に、佼成ウインドのオーディションを受けたことです。オーディションでの審査は、演奏者と審査員がカーテンで仕切られ、誰が演奏しているか分からない状態で、音だけで判断されます。ベルが鳴った時点で審査終了とのことで、実際のオーディションでは演奏を始めて何小節かを吹いただけで、すぐに帰らされてしまうこともあると聞いていた私は、自分の演奏の客観的な評価を知りたいと思い、恐る恐る、人生初となるオーディションに応募したのです。

きっと、すぐにベルを鳴らされてしまうだろうと思って臨んだのですが、意外にも、最後まで演奏させてもらえました。合格こそできませんでしたが、「演奏を止められなかったということは、もう少し頑張れば、プロの世界に入れるのかも?」と勇気をもらいました。これを機に、管弦楽や吹奏楽の楽団員になろうと心に決め、受けられるオーディションを全て受けました。

オーディションは、もちろん緊張するのですが、その時間は、一流のプロたちが私の演奏だけを聴いてくれると思うとワクワクしてくるんですね。オーディションを受けたことがきっかけとなり、大学4年生の頃からフリーの演奏家としていろいろな楽団に呼んで頂けるようになりました。そして卒業から約半年後の2020年9月に、佼成ウインドのアルトクラリネットのオーディションに合格したのです。小学生の頃から、佼成ウインドが演奏するさまざまなマーチの曲を聴いてきましたし、吹奏楽部に所属していた頃もお手本にしていた憧れの楽団の一員になれたことは、言葉に表せないほどうれしかったです。

プロフィル

たきもと・ちあき 栃木・宇都宮市に生まれる。2017年に小澤征爾音楽塾オーケストラに参加。第37回ヤマハ新人演奏会に出演した。これまでにクラリネットを小倉清澄、伊藤圭両氏に師事。作新学院高等学校を経て、東京藝術大学を卒業した。