TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・亀居優斗さん Vol.3

多くの楽団に所属することで、物の見方や考え方は一つではなく、たくさん持つ方が自分を広げると学んだ亀居優斗さん。その経験は現在の楽器へのこだわりや、プロになっても他の奏者からレッスンを受ける自身のスタイルにつながっている。最終回のVol.3では、亀居さんの人生に大きな影響を及ぼした人物とそのエピソードを紹介。さらに、吹奏楽に励む中高生に向けて上達のヒントを語る。

心を揺さぶられた一言

――最も影響を受けたと言えるプレイヤーはいますか?

ロマン・ギュイオです。ヨーロッパ・チェンバー・オーケストラに所属するクラリネット奏者で、スイス・ジュネーヴにある国立音楽院で教授もしています。ロマン先生とは高校1年生の時に京都で開かれた演奏指導の講習会で出会いました。

クラリネットの講師として来日していて、その講習会では、一対一で指導を受けることができました。他の人が指導を受けている時間には、その指導も聴講することができました。出入りは自由ですが、基本的に講習を受ける人は皆、勉強のために聴講していますから、出ていく人はいません。しかし、当時の僕は、花粉症がひどくて、眠気の強くなる薬を飲んでいたので、半分以上、クラスにいることができませんでした。そしたら、先生から、「君はどうして私の講習に来ないんだい?」と質問されてしまいました。悪い印象を持たれた初めての出会いでした。

二度目の出会いは、僕が通っていた東京藝術大学に講師として来られた時。三度目にお会いしたのは大学3年生の時に参加したベルギーでの国際コンクールです。先生は審査員としていらっしゃっていました。出場者の中には先生の生徒が多数いて、その人たちは素晴らしい演奏をしていました。なぜ、この人たちはこんなにすごいのだろうと思い、それまでを振り返ると、いろんな人の演奏を聴いていく中で、「素晴らしい」と思った人の多くも先生に教わった人たちでした。素晴らしい演奏家を育てることができる先生に、僕はすっかり感銘を受けました。

大学4年生の夏にフランスで先生の講習会が開かれることを知り、コンクールで素晴らしい演奏をして感銘を受けた人たちのように僕も先生から学びたいと思い、フランスに行きました。この時の講習会が、僕の人生を大きく変えることになります。先生は僕に、「君の音はもっと響かせられるはずだ! Timbre(タンブレ)になっていない!」と言って指導してくれたのです。

“Timbre”とはフランス語で、直訳では「音色」という意味があります。当時は、通訳の方が先生の言葉を日本語で説明してくれていて、音響学的音色の意味を含めて、「響き」と教えてくださいました。この言葉をきっかけに、良い音色だけでなく、振動させられる音、響きを持った音を考えて吹くようになりました。力任せに吹いても、音はきれいに振動せず、良い響きにはなりません。試行錯誤しながら、適度に力を抜くことで良くなることもあるのだと気づきました。先生から頂いた言葉は単純なものでしたが、「Timbre」を意識することで、僕の音は少しずつ変わっていったのです。

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