TKWO――音楽とともにある人生♪ オーボエ・宮村和宏さん Vol.1

苦労を経て美しい音色が奏でられる

――リードを楽器本体に接続する管の内径は4ミリ程度と、とても細いですね

そうです。そんなに吹き口付近が細い楽器は他にありません。吹き口だけでなく表面に開けてある音階を変えるための穴(指穴)も1番小さいもので直径0.4ミリくらいなので水滴一つで詰まってしまい、音が出なくなります。また、吹き込むリードの先端の幅が小さく、息が少ししか入らないので、肺の息を少しずつ使うことになります。これは、息をずっと止めている状態に近く、演奏しているうちに肺の中に二酸化炭素がたまってしまいます。ですから、息を吸うタイミングで、まずは一度息を吐き、それから吸います。他の楽器のように、息を吸うだけとはいかないんです。

また、息が少ししか入らないのならば、少量の息を吸えばいいのだろうと思われるかもしれませんが、それは違います。管が細い分、楽器全体を響かせるためには、高い圧力が必要です。同じ風船を大きく膨らませたものと小さく膨らませたものとでは、吹き口を開いた時に出てくる空気の圧力は、大きい風船の方が高いですよね。これと同じ理屈で、オーボエに高い圧力で息を入れるには、後ろ支えとして肺にたくさんの息をためておかないといけません。息は少ししか入らないものの、強く吐かなくてはならないのです。

――体力が要りますね。そこから出る音色にはどんな特徴がありますか

よく響き、とても美しいのですが、分かりやすく例えるなら、“郷愁”を誘う音ですかね。演奏でも、よくそのように使われています。有名な曲を挙げると、「白鳥の湖」(チャイコフスキー作曲)や「ダッタン人の踊り」(ボロディン作曲)、サイズ違いのオーボエより少し大きい楽器「イングリッシュホルン」による「新世界」(ドボルザーク作曲)で、ソロ演奏の部分は皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか?

テレビ番組などでも、涙、涙のシーンのBGMで使われることが多いようです。

――ギネスブックでは、「世界で一番難しい楽器」と書かれ、「いじわるな楽器」とも呼ばれていますね

どなたが登録されたんですかね……。個人的な意見ですが、どの楽器も等しく難しいですよ。良い演奏をするために、それぞれの奏者が苦悩しながら、試行錯誤して、自分の楽器と向き合っていますから。オーボエが特別難しいとは思っていません。ただ、先ほどお話ししたリードがやっかいであること、メンテナンスが大変であるため、アマチュアの方にはハードルが高いとは感じています。

「いじわるな楽器」と呼ばれるのは、チューニング(調律=音程を合わせること)も関係していると思います。演奏の前には、オーボエ奏者が一音を長く吹き、これを基準に他の楽器が音程を合わせていきます。

なぜ、オーボエがチューニングの基準音を務めるのか。それは、チューニングメーター(音程を計測する機械)が無かった時代の名残なのですが、オーボエは管が細く、最初に楽器が温まり、他の管楽器よりも演奏ピッチ(音程)に早く到達するため、そして、構造上、楽器の抜き差しで音程を変えにくいからです。

例えばクラリネットやトランペットは、管を抜き差しする部分で音程を上下させることができます。一方、オーボエは管の継ぎ目やリードを抜くと、いくつかの音の音程が修正不能にぶら下がったりしてしまいます。この融通の利かないところが「いじわるな楽器」と呼ばれるゆえんなのでしょう。

プロフィル

みやむら・かずひろ 1979年、兵庫・神戸市生まれ。2001年に東京藝術大学を卒業し、TKWOに入団。第3回高校生国際芸術コンクール、第69回日本音楽コンクールのオーボエ部門でともに1位を受賞した。アルバム「プロミネンス」(佼成出版社)、「マジック・オーボエ」(日本アコースティックレコーズ)をリリース。国内外のオーケストラの公演に客演首席奏者として参加し、昭和音楽大学、洗足学園音楽大学では非常勤講師を務める。ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングスによる楽器擬人化プロジェクト「MusiClavies」において、登場人物・ルルのオーボエ・ダモーレの演奏を担当している。