TKWO――音楽とともにある人生♪ テナー・サクソフォン・松井宏幸さん Vol.1

プロの演奏家が奏でる生の音色を感じたい

――生演奏を聴くことにこだわったのは、どうしてですか?

今、この瞬間に楽器から出てくる音を聴きたかったんです。なるべく小さな会場での演奏を狙って足を運んでいました。その方が、近くで聴くことができますから。そこで聴いた音色をまねできるようになれば、一流の演奏家に近づけると考えたのです。

CDに収録された演奏は、ホールの響きなどを生かして、一番美しく聞こえる音色が収録されていることが一般的です。さらに、何本ものマイクを立てて収録した音を、各楽器の演奏が引き立つようにミックス(調整)される場合も少なくありません。ですから、その音をまねてホールで演奏しても、客席では自分が思い描いた音とは違って聞こえるのではないかと、当時から私は思っていました。だから、プロの演奏家が出す、そのままの音を感じたかったのです。

それに、ステージでのちょっとしたしぐさ一つも、私にとっては勉強でした。例えば、演奏前、楽器はどの位置で持っているかとか、ステージに出たら譜面を置く動作と客席におじぎをする動作はどちらが先かとかですね。疑問があれば、演奏後に尋ねました。須川先生も、「よくそんなところを見ていたね」と言って、丁寧に教えてくださいました。師匠の技を舞台袖で盗むではないですが、ステージマナーなどは教わる機会がそれほど多くないので、プロ奏者のステージでの立ち居振る舞いを参考にさせて頂きました。生演奏は、学びが多かったですね。

憧れの演奏家の音を聴き、まねてみる。できなくても、少しでも近づけるように、練習する。これを繰り返しました。高校生がすぐにまねできるほど簡単なものではありませんが、憧れの演奏家に近づきたいという気持ちが、練習に打ち込む原動力になりました。

――プロを意識したのはいつぐらいですか?

高校3年生の秋です。高校3年間はずっと、楽器がうまくなりたいという一心で、吹奏楽部の練習のためだけに学校へ通っていました。特に、3年生の時は、吹奏楽部の演奏をまとめたり、練習内容を検討したりする「学生指揮者」を任されたので、普門館で行われる、全日本吹奏楽コンクールの全国大会で金賞を取るにはどうすればいいかを毎日考えていました。どの授業中でも、課題曲の楽譜を机に出して、自分たちの演奏の課題を振り返りながら練習メニューを考える、といった感じでした(笑)。

だから、全国大会が終わって、進路について考えた時、初めて気づいたんです。自分は3年間、楽器しかやってこなかったな、と。でも、まったく焦ることはなかったですね。むしろ、それならば、思う存分、とことん突き詰めようと決めました。そして、せっかくなら自分が憧れている須川先生に習いたいと思い、須川先生が教壇に立つ東京藝術大学に進むことを決めました。母が国立音楽大学の声楽科を出ているので、音楽大学の受験が一筋縄ではいかないことは分かってくれていました。1年の浪人を許してもらい、合格できたのですが、挑戦するチャンスを与えてくれたことに対して、本当に感謝しかありません。

プロフィル

まつい・ひろゆき 1978年、埼玉・蓮田市出身。私立埼玉栄高校を卒業後、東京藝術大学で須川展也氏に師事する。東京文化会館主催の「新進演奏家デビューコンサート」オーディションに合格したほか、第8回日本クラシック音楽コンクール全国大会で第3位、第22回管打楽器コンクールで入賞。現在、「カルテット・スピリタス」「MUSIC PLAYERS おかわり団」「須川展也サックスバンド」メンバーほか、洗足学園音楽大学講師、ビュッフェグループジャパン専属講師を務める。