TKWO――音楽とともにある人生♪ バスクラリネット・有馬理絵さん Vol.3

続けられるのは一瞬の喜びのために

――奏者として苦しかったことや、うれしかったことはありますか

9割方苦しいですよ。リードを育てるのも正直大変ですし、常に次の演奏会のことを考え、逆算してスケジュールを立て、日々準備しなければなりません。休みといっても、練習は欠かせませんから、「やらなければいけない」という思いに追われて、楽ではないです。

ですが、うれしいことがあるので、今ここにいるのでしょうね。うれしいこととは、演奏会の全ての曲目が終わった瞬間ですね。安堵(あんど)の気持ちと、良い演奏の音の余韻に浸っている時。でも、それも一瞬です。次の瞬間には、ここをこうすればよかったと、反省が出てきます。終わった後の一瞬のために9割の苦しみを乗り越えていますね(笑)。

――30年以上奏者を続けることができたのは、演奏会が終わった後の“一瞬”のためなのですね

それにもう一つあります。反省が出てくるということは、次の課題がすぐあるということなんですよね。苦手を克服したい、次はもっと違ったアプローチをしたいと思って、その欲求が尽きることは今のところありません。それは苦しみでもありますが、逆にモチベーションになっていると実感しています。探求することを諦めずにやってきた結果が、今につながっています。

――吹奏楽に励む中高生にメッセージを

「ライブ演奏に触れてほしい」と一番に思います。今の時代、家にいても何でも聴くことができますし、見ることができます。ですが、それでは息遣いや緊張感、会場の空気は一向に分かりません。そうしたことが、吹奏楽に励む若い人には必要です。自分が実際に体験したことが、演奏にも生きてくるからです。

例えば、「音を遠くまで飛ばして」と指導するとします。すると、学校の中だけで練習ばかりしてきた生徒さんたちは、音が遠くに飛ぶことをなかなかイメージできないんです。ホールで演奏を聴いて、一人ひとりの音がどれだけ聴こえてくるのかを実感する。そのことが距離感をつかむことにつながり、自分が演奏する時に生きてきます。

私が初めて吹奏楽を聴いたのは小学6年生の時でした。自分が進学する中学校の演奏を聴きに行って、感動したんです。すぐに家に帰って、親に中学校では吹奏楽部に入ることを伝えました。今、振り返ると、あの時の演奏がうまかったとは言い難いのですが、その時の感動はライブの力によるものだったと分かります。画面の中だけでは体験できない力がライブにあります。ぜひ、生の演奏を聴きに、会場に足を運んでください。

プロフィル

ありま・りえ 1975年、奈良市生まれ。京都市芸術大学を首席で卒業、東京芸術大学大学院修了。第68回日本音楽コンクールクラリネット部門入選、第18回日本管打楽器コンクールクラリネット部門入賞。2007年に東京佼成ウインドオーケストラに入団した。現在、洗足学園大学非常勤講師。