TKWO――音楽とともにある人生♪ ユーフォニアム・岩黒綾乃さん Vol.3
佼成ウインドの歴史を大切にして、新たなチャレンジを
――今年、佼成ウインドの一員となり、10年を迎えます
高校生の時に見たステージとエキストラとして共演した経験から、クオリティーの高い演奏が求められることは入団前から理解していました。実際に入団すると、一人ひとりの技術と音楽性の高さを肌で感じました。それだけでなく、楽団として優れた演奏をするには、どのパートも他の楽器の音をしっかり聴き、相手に合わせて演奏する「アンサンブル」が大切なのだと思い知らされました。自分の演奏を大事にすると同時に、楽団全体が輝くために与えられた役割をしっかり果たす――その両方をずっと心がけてきた気がします。
私が入団した時期は、フレデリック・フェネルさん(TKWO桂冠指揮者)と共に佼成ウインドの演奏をつくり上げてきた団員が次々に定年を迎え、退団されていくタイミングでした。ですから、ここ10年で楽団員の3分の1以上が代わるなど、世代交代が著しく進みました。
佼成ウインドが過去に演奏したことのある作品を、私たちが再び演奏会で取り上げる時、当時の楽譜を使うことがあります。中には、演奏会のたびに長く使われてきて、茶色く変色しているものもあります。譜面には、当時の団員が演奏で注意すべきことなどを記したメモが残っていて、曲を理解するヒントにさせてもらっています。この時、楽団の歴史を感じます。そして、フェネルさんや先輩方がつくり上げたサウンドがあって、それを大事にしてくれるファンの皆さんがいてくださって、今、自分たちがいることを強く感じます。先人たちの努力の積み重ねに感謝しながら、新しいことにもチャレンジしていきたいと思っています。
定期演奏会では、吹奏楽オリジナル作品やクラシック編曲作品を披露していますが、最近は新たな取り組みとして、人気のゲームや映画の楽曲などの演奏会を通して、吹奏楽を聴いたことのない方々にも佼成ウインドの演奏をお届けしようと力を注いでいます。今のメンバーで佼成ウインドのサウンドや表現をつくり上げていくことは楽しいですし、楽団の一員として大切にしたいと思っています。
――最後に、吹奏楽に取り組む中高生に向けてメッセージをお願いします
演奏の技術を磨いていくことは大切です。同時に、気持ちや感じたことを音に込めて演奏することも重要になります。楽器が奏でる音には、奏者の感じたものが反映されます。それが観客の皆さんの耳に届けられ、時に感動を呼ぶのです。
そういう意味で、楽しんだり、驚いたり、涙を流したりするような体験が、音楽にはとても必要なことですから、学生の皆さんには、一つ一つの経験を大事にしてほしいと思います。そして、さまざまな経験を基に培われた、「うれしい」とか「楽しい」「悲しい」といった気持ちを音に込めて演奏してみてください。それだけでも、より味わい深い表現ができるようになるのではないでしょうか。佼成ウインドでは、団員が学生や市民の方に直接、楽器の演奏を指導するワークショップ「吹奏楽大作戦」を行っていますが、私はそうした話をよくしています。
それと、「好き」という感覚を大事にして、人生を歩んで頂きたいですね。今、私はユーフォニアムの演奏を職業にできて、とても恵まれた状況にあると感謝しています。それでも、これまでに大変だなあと思うことは何度もありました。そうした中でも、演奏家を続けてこられたのは、ユーフォニアムが、音楽が好きだったからだと思います。どんなに苦しくても、好きという気持ちは困難を乗り越える時、必ず大きな力になります。自分の気持ちを突き動かす「好き」という感覚を大事にしながら、夢に向かって惜しむことなく努力してほしいなと願っています。
そして機会があれば、ぜひ、演奏会で生の演奏を体感してもらいたいですね。今は、インターネットを通じ、パソコンやスマホでさまざまな演奏を観たり、聴いたりできる時代ですが、会場の空気を体で感じることはできません。柔軟な感覚を持った時期に、奏者の気持ちがこもる優れた演奏をじかに体験すると、何かが生まれる気がします。
プロフィル
いわくろ・あやの 富山・高岡市出身。国立音楽大学卒業後フリーランスのユーフォニアム奏者として活動を始める。第18回日本管打楽器コンクールで第1位。2004年からパリ国立高等音楽院に留学し、07年に最優秀成績で卒業した。帰国後、08年にTKWO入団。ソロ、室内楽、吹奏楽、オーケストラなど多方面で活動し、13年にはソロアルバム「Fantasie Concertante」をリリースした。これまでに、ユーフォニアムを三浦徹、ユーフォニアムとサクソルンバスをP.フリッチュ、J‐L.プチプレの各氏に師事。現在、大学や高校で講師を務める。