TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトサクソフォン・田中靖人さん Vol.2
コンサートマスターは橋渡し役
――田中さんは佼成ウインドのコンサートマスターでもあります。どんな役割ですか
一番大事な部分は、指揮者と楽団員との橋渡し役をしっかり果たすことです。ですから、コンサートやレコーディングの時に行われるリハーサルの前には、指揮者と演奏に関する打ち合わせを行います。また、指揮者の意図を楽団員に伝えることもあります。
練習中に、指揮者の意図がうまく伝わらない時には、指揮者と楽団員の意志疎通が図れるようにすることもあります。同時に、楽団員の思いや考えを指揮者に伝えることもあります。
オーケストラの雰囲気が悪くなったら、改善するのも僕の役目です。指揮者も人間ですから、曲の方向性を迷うことがあるんです。指揮が迷うと、オーケストラの音がよどんでくるんですよね。そうした時に、何かアイデアを提案することもあります。
学校でいうと、学級委員的な役割ですね。先生の考えや意図を生徒に伝える。一方で、先生が目にしないけど、知っていてほしい普段の生徒の様子や、生徒が思っている、感じていることを先生に伝える。クラスの雰囲気が良くなるように常にアンテナを張っていると言えば、分かりやすいでしょうか。
――入団して22年目の時にコンサートマスターとなりますが、それまでと何か変化はありましたか
それまでの20年間、前任のコンサートマスターだった須川展也さんの隣で演奏していました。普段、コンサートマスターとしてどんなことを考えているか。また、オーケストラの空気が悪くなってきた時、どう対応するのか、そんなことを須川さんの姿を見て、ずっと感じてきました。
コンサートマスターには、“タイミングをつかむこと”が必要とされます。演奏する曲について、気になることがあれば、どのタイミングで指揮者に、あるいは楽団員に伝えればいいのか。さらに、本番中もアンテナを張り、見て、聴いて、楽団員とアイコンタクトを取って、指揮者の様子をうかがいながら、どの瞬間で自分が立ち回ればいいのか。そう常に気にしながら、タイミングを外さないことですね。コンサートマスターに就いた時、自分は「分かっている」つもりでした。しかし、いざ実際にその立場になってみると、周りのことに気を配りすぎて、そのタイミングが分からなくなってしまったのです。
自分の演奏がボロボロになってしまったり、「そこはこうした方がいい」と偉そうなことを言っていて、自分だけが飛び出してしまったりと、特にコンサートマスターになってはじめの2年間は本当に大変でした。何度もそうした失敗を繰り返していくうちに、少し分かるようになってきました。
――コンサートマスターの理想像は
よくコンサートマスターというと、指揮者が「楽団のリーダーです」と紹介します。そうするとお客さんは、「一番偉い人なんだ」と思いますよね。指揮者がいない室内楽のアンサンブルだと、演奏者が積極的に意見を出し合いながら音楽をつくります。リーダーというよりは、みんなで意見を出し合って、一つの音楽をつくっていく。オーケストラもそういうのが理想だと思っています。僕自身が思い描くコンサートマスターは、その空気をつくる存在です。指揮者と楽団員との橋渡し役はしますが、楽団員の上に立つ、というよりはみんなの役に立つ存在――それが理想です。
プロフィル
たなか・やすと 1964年、和歌山市生まれ。TKWOコンサートマスター。第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。国立音楽大学卒業後、1989年にTKWOに入団し、ソロ、サクソフォン4重奏団「トルヴェール・クヮルテット」でも活動している。また、現在は昭和音楽大学、愛知県立芸術大学などで講師を務めている。