TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトクラリネット・新井清史さん Vol.3

サーキットで速く走ることを目指し、自ら部品交換しているシボレー・コルベット

アルトクラリネットは演技派

――学生時代から車をいじることが趣味だそうですが、演奏に生かされることはありますか

ぼくはサーキットでレースにも出場しているのですが、性能を良くしようと思って車をチューニングしても、うまくいかないことは多くありました。こちらの機能を良くすれば別の箇所が不具合を起こすというように、バランスを保つのが難しいのです。チューニングによって、性能が劇的に良くなることもあまりありません。そうした長年の体験から確信していることは、部品を換えるよりも、車を支えるタイヤ部分のホイールを一生懸命に洗ってきれいにしてから走る方が、不思議とタイムは速くなるということです(笑)。

吹奏楽の演奏もこれと同じだと感じています。楽団で良い演奏を作り上げていくには、演奏技術だけでなく、お互いの演奏を尊重し、支え合い、協力するといった奏者一人ひとりの“心”が最も大事です。ハーモニーは、それが根本ではないでしょうか。

――アルトクラリネットの練習に励む学生にアドバイスを

アルトクラリネットという楽器を好きになることが何より大切です。好きになった上で、他の楽器の特長に合わせて吹き方を変えてみるなど、いろいろな発音や表情ができるようになればいいと思います。

映画の作品を評価するアカデミー賞でも、主演女優賞より助演女優賞の方が難しいといわれます。それは、自分の思ったように演技する主演の役者と違い、助演の役者は主演に合わせ、ある時は支え、また引き立たせるための幅の広い、本物の演技力が不可欠だからです。

アルトクラリネットはまさに、合奏における助演の役者だと思います。ですから、演奏において何物にも代え難い大事な役割を担う楽器を任せられていると思い、自信を持って取り組んでください。

プロフィル

あらい・きよし 1958年、東京都生まれ。国立音楽大学在学中に東京クラリネット・アンサンブルのメンバーになり演奏活動を始める。同大学を卒業後はオーケストラやソロなどフリーランスとして活動した。93年、東京佼成ウインドオーケストラに入団。現在、洗足学園音楽大学非常勤講師、日本クラリネット協会執行理事を務める。