TKWO――音楽とともにある人生♪ テューバ・小倉貞行さん Vol.3
“吹奏楽の第一人者”と称されるフレデリック・フェネルさんとの出会い、楽器と運動の共通性などを通し、小倉貞行さんの音楽観は確立されてきた。合奏におけるテューバの役割とは何か、音楽に込められた願いとは――プロ奏者として30年以上にわたる音楽人生を振り返りながら、吹奏楽に励む中学生、高校生への思いを聞いた。
テューバは縁の下の力持ち
――演奏で気をつけていることは
テューバは一番低音の部分を担って演奏を支え、全体のハーモニーや音程が良くなるように務めることが役割ですので、高音楽器が音をブレンドしやすい土台を作ることを常に心がけています。音大を卒業した頃はソロに憧れ、佼成ウインドに入団した後もしばらくは、ソロを吹かせてもらっていました。ただ、テューバがソロで音を目立たせるには、音域を高くするか、音量を大きくするか、音色を硬くするかの三つしかありません。こうした音は他の楽器と溶け合わなくなるので、テューバ本来の役割からすると良いことではないのです。
ソロを吹くことと合奏としての音を作ること――ここに大きなギャップを感じ、結局、<ブレンドしやすい音を求めるべきじゃないか>と思うようになったのは、40代半ばぐらいの時でした。それまでは、比較的小さいテューバを使っていたのですが、その辺りからブレンドしやすい音を出すために楽器も大きなものを使うように変わっていきましたね。
――縁の下の力持ちとして演奏を支えていくことが、テューバの魅力なのですね
本当にそう思います。フルートやクラリネット、トランペットといった高音の小さな楽器はスポーツカーを運転しているようなもので、とても目立ちますが、二人ぐらいしか乗ることができません。一方、テューバなどの低音楽器は大人数が乗れるバスです。多くの人が安心して乗ることができ、彼らを安全に目的地まで運ぶように、他の多くの楽器がすてきなメロディーを奏でられるようにすることが求められます。「テンポやリズム、音程といった演奏の土台は自分たち低音楽器がしっかり作る」という意識が重要です。
合奏は、ソロ演奏に秀でた人が集まったからといって、必ずしも素晴らしい演奏になるわけではありません。それぞれの楽器には役割があり、お互いの音がブレンドされて初めて、心に響く演奏になります。観客の方は、その出来上がった作品を聴きに来られるわけですから、テューバとしては、低音の部分で全体を支えてブレンドしやすい音をしっかりと作らなければならないと、自分に言い聞かせて臨んでいます。