『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(1) 文・小倉広(経営コンサルタント)

「会社で評価してもらえなくて、毎日、苦しいんです」

「上司から評価されず、自信がなくなった」

「昇進・昇格が遅く、落ちこんでいる」

ビジネスマンから多く寄せられる悩みです。私自身も同じような経験が何度もあります。つらいですよね。

しかし、心理学や哲学、仏教、儒教などを学んだ今、私にこのような悩みはありません。誰からも評価されなくてもいい、うまくいかなくてもいい、と半ば開き直れるようになったからです。

評価されない、と悩む人の多くは「機能価値」と「存在価値」をごちゃ混ぜにしてしまっているのです。

上司から評価されない、というのは機能価値の問題です。しかし、上司から評価されなくても、存在価値には何の影響もありません。

存在価値とは、ただ生きているだけで価値がある、という価値です。例えば、あなたを大切に育ててくれたご両親は、あなたが会社から評価されずとも、あなたを大切に考えてくれるでしょう。あなたがもし、犯罪を犯して、刑務所に収監されてしまったとしても、あなたの帰りを待ちわびてくれるでしょう。

それが、存在価値です。そして、あなたの存在価値は、本来、両親の態度にさえも影響されません。仮に、残念ながら、あなたのご両親があなたを大切にしてくれなくても、あなたの存在価値が毀損(きそん)されることはありません。あなたが、あなた自身の存在価値に目を向ければいい。それが、そこに「ある」ということに気づきさえすればいいのです。

このように考えると、私たちのほとんどが、機能価値と存在価値をごちゃ混ぜにしてしまっていることがわかります。会社から評価されないことで、あたかも自分の存在価値までもが否定されてしまったように感じてしまう。機能価値が存在価値を決めている、と勘違いしているのです。

しかし、それは間違いです。存在価値は、根拠なく、立証の余地もなく、あなたの中にあるのです。それに気づき、認めたとき、あなたは心の安らぎを感じるでしょう。すると、不思議なことに、仕事がうまくいき、機能価値までもが発揮され始めるのです。

自分の中にある存在価値を認めることができない人は、他者評価に飢えています。そして空回りする。焦れば焦るほどうまくいきません。

しかし、存在価値を根拠なく認めることができる人は、他者評価を求める必要がありません。心に余裕があり、仕事がうまくまわり、対人関係でも他者から愛されるようになります。そして、本来の能力が発揮され、機能価値までもが高まるのです。

評価されるから存在価値が認められるのではありません。逆なのです。まずは、根拠なく存在価値を認めるのです。

始まりは存在価値から。根拠なく、それが「既にある」ことを認めることから始まるのです。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)、『僕はこうして、苦しい働き方から抜け出した。 』(WAVEポケット・シリーズ)など著書多数。