TKWO――音楽とともにある人生♪ ホルン・木村淳さん Vol.2

棚机の奥にしまわれた、歴代の自作マウスピース

自分に合った理想の楽器を求めて

――プロのホルン奏者になってから、葛藤したことは?

1979年にオーケストラに入団してから、演奏に行き詰まった時期がありました。息を吹き込むマウスピースの問題です。マウスピースとは、演奏の際に楽器に付け、終われば外すという使い方をします。楽器の性能を引き出すために重要なものですが、市販で売っているものをいくら探しても、自分に合う理想のマウスピースが見つかりませんでした。

木村さんが楽譜や図面の作成、楽器の手入れを行う自宅練習室の棚机

悩んだ揚げ句、自分に合ったものは自分で考えるしかない、という発想に至りました。そこで、マウスピースの設計図を描き、それを製作者の方の所へ持って行って製作を依頼しました。プロになった翌年のことです。

初めは年に1回の頻度で新たなものを設計し、改良を重ねていきました。今使っているマウスピースは渾身(こんしん)の出来で、すでに10年近く使っています。より吹きやすいものを求め続けるうちに、形がだんだん大きくなっていきましたね。

――やはり、そこまでこだわるのですね。それでは、演奏技術の向上のために、現在も続けていることはありますか

毎日の基礎練習です。特別な練習ではなく、本当に基本的な音の出し方を大事にしていて、基礎中の基礎を怠らないようにしています。

ただ、練習は、し過ぎても、サボってもいけません。適正な練習量は人それぞれ異なると思いますが、私の場合は、ホルンの4オクターブある全音域を毎朝、自宅で吹いてから出勤するようにしています。練習内容は、その日の都合に合わせて微妙に変えるのですが、師匠から受け継いだノウハウとともに、長年の経験をもとに編み出した練習法で行っています。

また、体や唇の調子は音に直接影響が出ますから、ホルン吹きには、基礎体力も必要です。たとえ年を取っても体力は維持・増強できますので、毎日歩いたりランニングしたりといった努力は欠かせません。

プロフィル

きむら・あつし 1958年、石川・金沢市生まれ。ホルン奏者の田中正大、黒澤勝義、ワード・ファーン、アロイス・バンブーラの各氏に師事。桐朋学園大学在学中に東京交響楽団に入団し、86年にTKWOに移籍した。現在、日本ホルン協会理事を務める。作品の編曲は多数。趣味は、歴史的建造物を訪ね歩くこと。