『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(8) 文・小倉広(経営コンサルタント)

「怒鳴る上司と落ち込む私」

上司に怒鳴られて落ち込んだ。

誰もが一度はそんな経験があるに違いありません。

しかし、この出来事をアドラー心理学で考えると、おもしろい事実が見えてきます。アドラー心理学では「あらゆる行動には目的がある。それは優越の追求もしくは劣等の回避である」と考えます。仕事における気分の「落ち込み」については、本連載の第6回でも触れましたが、さらに詳しく分析してみましょう。

怒鳴る上司には上司なりの目的が、落ち込む部下には部下なりの目的がある。しかも、無意識下で目的追求は行われているのです。

まずは上司が怒鳴る目的を考えましょう。優越の追求の観点からいくつかの可能性が考えられます。

「部下が下で自分が上だという上下をつけたい」「部下が間違っていて自分が正しいと正誤をつけたい」「部下が劣っていて自分が優れていると優劣をつけたい」「部下を熱心に指導する優れた上司であると周囲に見せつけたい」などが考えられるでしょう。

劣等の回避の観点からは、以下のような可能性が考えられます。

「部下に間違いを正当化され上司の責任にされるのを回避したい」「部下の育成ができない無能な上司と思われたくない」「部下の仕事に無関心で目が行き届いていないと思われたくない」など。

こうやって考えてみると、上司が必要以上に怒鳴ったり、怒ったりするその陰には、上司の見栄や体裁が隠されていることがわかります。つまり、上司が怒鳴るのは、部下の問題というよりは上司自身の問題であることがわかります。

この事実に気づけば、部下自身の上司への見方が変わってくるでしょう。「ひどい上司だ。私のせいにして!」と被害者の気分で上司を責めたり、「私は、なんてひどい間違いをしたんだろう」と自分を責めたりするのではなく、「上司自身の問題が、私に降りかかっているだけ」と軽く考えて、自分は仕事上の問題解決に集中すればいいのです。

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