ミンダナオに吹く風(6) 大国に独占される利権 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)
大国に独占される利権
2000年に、「バリカタン」と呼ばれるフィリピン政府軍とアメリカ軍の合同演習という名の実戦が行われ、120万を超える避難民が出た。その後、その避難民たちがまだ厳しい避難生活をしているというのに、2003年に「テロリスト掃討作戦」と呼ばれる、実際にはアメリカ軍主導による戦争が行われた。これは世界中で大きな惨事が起きた(起こされた?)時期と重なっている。
この2年前の2001年9月11日に、アメリカでは同時多発テロが起こった。それをきっかけに2003年3月に、ブッシュ政権によってイラク戦争が勃発したのだが、「テロとの闘い」という意味で、ミンダナオのテロリスト掃討作戦とイラク戦争とは、連動していたと思われる。
一方、その前後に、ミンダナオの南に位置するインドネシアでは、1999年8月30日に東ティモール独立に関する住民投票が行われ、事実上独立が決定したものの、インドネシア政府の意向を受けた治安当局は、非常事態宣言を発令し、民兵を使って虐殺を行った。これによる騒乱は、オーストラリア軍の介入で2002年に終結し、独立が成立した。
ミンダナオのムスリムの人々からこんな声が聞かれる。「欧米諸国は、インドネシアでは独立を掲げるキリスト教徒を支援して東ティモールを独立させたのに、なぜフィリピンでは、ムスリムの独立を認めずに逆に攻撃を仕掛けてくるのか」というものだ。確かにスペインからキリスト教が入ってくる以前、この地域における最初の独立国家は、ミンダナオ島西部のコタバトにできたイスラームのマギンダナオ王国だった。「私たちは400年前から独立した国をつくり、その後も今日にいたるまで独立運動を続けている。東ティモールの独立は簡単に認められるのに、なぜモロ族の独立を認めないのか」というのが、彼らの思いだ。
ミンダナオの紛争について、初めは宗教対立の問題かと思っていた。しかし、この地で15年間にわたり不幸な子どもたちの救済支援を続けてきて耳に入ってきたのは、「ミンダナオの紛争の原因は、宗教よりも国際資本による石油と天然ガスなど豊富な地下資源の獲得競争が背景にあるのだよ」という話だった。しかも、東ティモールも全く同じで、近海に眠る海洋油田の開発利権の確保が目的で、海外からの支援で独立運動が推進されたのだという。ちょうど両者にお金(武器)を渡してプロレスをやらせ、リングの外で賭け事をして大儲けをする第三者がいるのと同じだとか。アルカイダやイスラーム国も、同様の流れによって作られたのだともいわれる。
真偽の方は別にしても、結局は命がけで戦って死んでいく若者たち、そして戦争の被害をまともに受ける罪の無い子どもたちがかわいそうでならない。
プロフィル
まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。