画・花本彰

アルバム「ABC」

マイケル・ジャクソンの話をしたくて、うずうずしていました。ジャクソン５のセカンドアルバム「ABC」に収録されている「LA-LA MEANS I LOVE YOU」が、このアルバムでは一押しです。

ジャクソン５は、ジャクソン一家の５人兄弟で構成されたグループです。モータウンのレーベルからデビューした時は、他の歌手とは違って、服装、髪型に黒人らしさを出して、アイドル路線、日本でいうジャニーズのようにプロデュースされ、売り出されていきました。マイケルはまだ１１歳。この頃から、歌と踊りに天才ぶりを発揮していました。

アルバム「ABC」

デビュー曲「I WANT YOU BACK」、このアルバムにも収録されている「ABC」「THE LOVE YOU SAVE」は続けてシングルで発売されます。ディスコが流行していた時代、テンポが速くて、踊りやすい曲で、全米ヒット・チャートでナンバーワンに輝きますが、同じような曲調なんですよね。

「LA-LA MEANS I LOVE YOU」はバラードで、デルフォニックスのカバー曲となります。ジャクソン５のバージョンは歌詞が始まるまでのイントロが印象的で、マイケルの声変わりのしていない女の子のような澄んだ声が、オリジナルとは全然違って、ロマンチックな雰囲気を醸し出しています。

ちなみに、「LA-LA MEANS I LOVE YOU」は山下達郎もカバーしていて、オリジナルを踏襲して歌っています。

ジャクソン５はのちに、モータウンを出て、ジャクソンズとなりますが、私はその頃のレコードは買いませんでした。マイケルはジャクソン５の頃からソロでも活動していましたが、クインシー・ジョーンズとマイケルが出会い、クインシーのプロデュースで発売されたアルバム「OFF THE WALL」からマイケルは変わり、生き生きとした様子が音楽から伝わってきました。このアルバムからマイケルのレコードを再び買うようになりました。

マイケルの曲でもう一つ、欠かせない曲は、「BLACK OR WHITE」です。黒とか白とかもう疲れたよと、そんなことは関係ないとストレートに歌った曲ですね。ミュージック・ビデオでは、多種多様な人種が登場し、マイケルが世界を周っているような構図になっています。

マイケルの生まれは、住民のほとんどが工場の黒人労働者だったインディアナ州ゲイリーです。

成長していく過程で、“黒人”という理由でさまざまな差別を受け、白人が独占する権利や文化に憤りを感じてきました。白人なら爆発的な数のレコードが売れたら雑誌の表紙に載るのに、黒人が表紙になると売り上げが下がるからという理由で断られたり、賞を取れなかったり……、心無い言葉を受けることもありました。

そして、「BLACK OR WHITE」の根底には、モータウンのトム・クレイが歌う「What the World Needs Now Is Love」が影響していると思います。この曲では、公民権運動やベトナム戦争の内容が盛り込まれ、黒人差別に異を唱えています。

マイケルは黒人差別のほかにも、人間不信となっていく出来事が何度もありました。父親による虐待、家族の裏切り、自分を押さえつけようとする人たち、莫大（ばくだい）な収益に群がってくる人、詐欺師……。

だからこそ、純粋な子供や、動物が大好きでした。

黒人に対する社会や人々の限界を自分で一つ一つ破って、もがいてもいました。１９８１年にMTVが登場するまで、音楽はラジオで２４時間ヘビーローテーションされるのが当たり前でした。一日に何度もかかって、自然と耳について、口ずさむ人が増えていく。それがヒットになる一番の基でした。その後、２４時間ポピュラー音楽のビデオクリップを流し続けるケーブルテレビチャンネル「MTV」が、音楽の発信ツールの主流となっていきます。しかし、ここでも差別がありました。黒人の映像は拒否されていたのです。それを「BILLIE JEAN」で越えていき、「Thriller」の踊りに全世界の人がくぎ付けになったのです。

雑誌の表紙にだって載るようになり、賞をいくつも受賞して、これまでの黒人への壁をぶち壊していきました。

傷ついてきたからこそ、これだけ多くの人の心を打つ曲を作ってこられたとも思います。エンターテイナーとしても、コンサートの細部にまでこだわってプロデュースし、見る人にとって最高のコンサートを行ってきました。「Thriller」の売り上げ枚数はギネス記録となり、いまだに記録が破られないほど売れているのは、絶え間ない努力に加え、皆にいいものを届けたいというエンターテイナーの精神をずっと持ち続けていたからです。デビュー当時のマイケルの歌やダンスからも、大人になってからの精神を計り知ることができます。

プロフィル

とまつ・よしはる　１９５３年、東京都生まれ。慶應義塾大学、大正大学大学院を経て、ハーバード大学神学校で神学修士号取得。現在、浄土宗心光院住職、世界宗教者平和会議（ＷＣＲＰ／ＲｆＰ）日本委員会理事長、浄土宗総合研究所副所長、国際医療福祉大学特任教授を担っている。全日本仏教会理事長、日本宗教連盟理事長などを歴任。趣味は音楽鑑賞（ソウルミュージック）。