ミンダナオに吹く風(26)最終回 ゆめポッケをめぐる旅の終焉 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

ゆめポッケをめぐる旅の終焉

今回の「ゆめポッケ」調査の最後に、立正佼成会の方々をマキララの山岳地帯の奥にあるマロゴン村にご案内した。四輪駆動のトラックに乗って、平地に果てしなく広がるバナナプランテーション農場を抜け、山麓から谷沿いに山に入り、熱帯樹の生い茂るジャングルを抜けて登っていく。すると、人が住んでいるとは思えない山奥に、先住民や貧しい人々が集まって住んでいる集落がいくつもあった。

「松居さんは、こんな山奥にまで入って活動していらっしゃるんですか。鶴見良行さんが書かれた『バナナと日本人』(岩波新書)は、バナナプランテーションの開発で山に追いやられた1980年代の先住民の状況を伝えた本だけれど、何と現在進行形なのですね!」

「ええ。ここの先住民たちは極貧で三食たべられないし、鉛筆も買えず靴も無く、小学校に行くことすらできないので、私たちはこの地域からも奨学生を採用しているんです。これから行く家の子は、お母さんが病気になり、医師の診察を受けて薬を買うために、父親が一時的に私有地をプランテーションに貸したのですが、数年後に『代金は払うから貸した土地を返してほしい』と申し出た途端、その場で殺されてしまったんです」

奨学生の家に行ってみると、子どもたちは考えられないほど小柄で痩せていて、一人の少女の髪の毛は栄養が足りないせいで抜け始めていた。そのあまりの悲惨さに、私たちはその場で、家族全員がミンダナオ子ども図書館に住めるように取り計らった。

お父さんが健在だった頃のハニーさん一家

掲載した写真には、まだ父親が生きている頃に撮った家族の姿が写っている。右から2番目に、白い服を着ているのが当時小学生だった少女のハニーさん。2018年には大学生になって、立正佼成会のご招待を受け、日本での踊りと歌の公演に参加して、NHKのニュースで放映された。こうして一人でも多くの子どもたちが苦しい状況から抜け出し、笑顔を取り戻してくれることが私の願いだ。

訪問者の方々と一緒に聞き取り調査をしていくに従って、だんだん見えてきたのは、現在起きている世界的な経済危機の影響を最も受けているのが、自給の地を捨てて土質の悪い高地に移り住まざるを得なくなった貧困層や先住民たちであることだ。先住民が代々暮らしてきた土地だが、彼らには法的に所有権を確定するという考えを持っていない場合が多い。そこに付け込まれ、天然資源を狙った戦争や土地の略奪によって、社会的に弱い立場の人々はさらに苦境に追い詰められていく。ミンダナオ島の現状は世界の社会問題の縮図だ。

そこからさらに車で山奥に入り、ミンダナオ子ども図書館の下宿小屋のあるマロゴン集落に着いた。下宿小屋の横には、信じられないほどの巨木がそびえ立っている。私はその巨木を指差すと言った。

「この巨木には、時期が来ると無数の蛍が飛び交って、大樹が巨大なクリスマスツリーのように輝くんですよ」

訪問者の方々は、巨木を仰ぎ見ると手を合わせて言った。

「神聖な大樹ですね。そうだ、将来ここでも、みんなで平和の祈りを行って『ゆめポッケ』をこの山一帯に住んでいる子どもたちに届けましょう!」

プロフィル

まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。