ミンダナオに吹く風(12) ヒナイヒナイ バスタ カヌナイ(ゆっくりだけれど絶えることなく) 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

ヒナイヒナイ バスタ カヌナイ(ゆっくりだけれど絶えることなく)

昨年の暮れ、ミンダナオ子ども図書館(MCL)のスタッフたちと、戦争避難民の支援に向かった。フィリピン・ミンダナオ島のマラウィで昨年5月に始まったイスラーム過激派と政府軍との戦いは、昨年10月23日に政府が戦争終結宣言を出し、表向きは戦闘が収まったとして、マラウィ市の近郊の避難民キャンプまで足を運び、救済活動ができるようになったからだ。そのため、今回は、破壊されたマラウィ中心部から逃げてきた人々が多く住む避難民キャンプを訪れて、奨学生採用の調査をした。

マラウィ市近郊の避難民キャンプ

マラウィ市の中心部は、激しい空爆と砲撃の応戦、さらに地上戦で、建物が徹底的に破壊されてしまい、砲弾で穴の開いたモスクや、空爆で破壊されたコンクリートの建造物は、生々しい戦争の傷痕として無残な姿のまま建っている。軍の関係者によると、市内の中心部には、まだ地雷や爆発物が仕掛けられているとのことで、いまだに避難民たちは、市内に入ることは許されていない。分離派の過激なグループは、マラウィを放棄してミンダナオの他の地域に分散し、戦闘が各地で起こる可能性があるとして、戒厳令はさらに一年間、2018年にまで延長された。

そのようなこともあり、避難民たちは、いまだに政府の指定したキャンプ場のテントや屋外体育場の屋根の下で過ごしている。すでに8カ月近く経った今でも、まったく帰宅の目途(めど)が立たずに避難民生活を送っている状態だ。

ミンダナオ子ども図書館によるマラウィ支援は、今回で5回目になる。前回の支援までは、戦闘中のマラウィ地域には入ることができなかったこともあり、隣のイリガン市の避難民キャンプが主な活動地域だった。また、支援の形態も、前回までは読み語りで子どもたちを元気づけた後に、立正佼成会をはじめとする全国の方々から送られてきた、生活物資や食料を届けることが主で、短期的な緊急支援だった。

しかし今回の支援は、前回と異なって、政府の福祉局と連携して、戦闘で家が破壊された地域の、特に親がいなくなった子や、母子家庭になってしまった子など、帰宅しても日常生活を続けていくことが困難な子たちを20名弱、ミンダナオ子ども図書館の奨学生に採用し、キダパワンの本部に引き取って住まわせてあげることだ。ミンダナオ子ども図書館の奨学生になれば、小学校から大学まで通うことができるだけではなく、衣食住から医療にいたるまでの面倒を見てあげられる。その結果、子どもたちは、安心して自立の道を歩んでいける。

ミンダナオ子ども図書館の支援活動の方針は、一定の期間が経てば支援を打ち切って、そこで関係が終わるのではなく、いったんお付き合いをはじめた村々や人々とは、ヒナイヒナイ バスタ カヌナイ(ゆっくりだけれど絶えることなく)隣人としての関係を持ち続けて、共に歩いていくのが基本だ。

(ミンダナオ子ども図書館の映像サイト『ミンダナオ子ども図書館:日記』http://www.edit.ne.jp/~mindanao/eizousaiteA.html#malawiに、現地で撮影した映像を載せています)

プロフィル

まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。