ミンダナオに吹く風(9) 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

ミンダナオで繰り返されてきた戦争に関しては、日本ではほとんど報道されなかった。理由は分からないが、毎年2カ月間、ミンダナオ子ども図書館の活動報告会で日本を訪れても、現地で起こっていることを知っている人はほとんどいなかった。

この連載を執筆する中で、現地の子どもたちの様子や支援活動について書く前に、「戦争の背景はいったい何だったのか」と疑問が湧いた。現地での戸惑いについて考えつつ、並行して当時の様子について調べたところ、2003年2月22日付の琉球新報の記事を見つけた。ワシントン駐在の森暢平記者による『在沖米軍、比過激派を直接掃討/沖縄、対テロ戦拠点に』と題する記事で、米軍が03年3月からフィリピンで、イスラム過激派「アブサヤフ」を掃討する新たな軍事行動を始めることが明らかになったと報じている。

03年3月といえば、「9・11」の米国同時多発テロが発生して1年半を迎える頃で、ブッシュ大統領(当時)が「テロとの戦い」を打ち出していた。記事にはフィリピンに約3000人の米兵が派遣されるが、沖縄駐留の米軍が大きな役割を果たし、沖縄が重要な拠点になることが指摘されている。

そして、「在沖米軍が東南アジアで直接の戦闘行動を行うのはベトナム戦争以来となる。フィリピンでの米軍のテロ作戦はこれまで、同国内での外国軍の戦闘行動を禁じるフィリピン憲法に配慮して、演習名目だった。しかし今回は、終了時期も定めない文字通りの実戦での軍事行動となる」と記されている。

実際に現場で民間人の支援活動を行っていたぼくの目から見ても、実戦であることは明白だった。

さらに森記者は、沖縄駐留米軍を主力として、フィリピンでイスラム過激派アブサヤフの掃討作戦が行われることになった理由をこう解説する。「イラクの軍事行動が差し迫るこの時期になぜとの疑問がわくが、アブサヤフは、米国がイラクへの攻撃に踏み切った場合のフィリピン国内での報復テロを宣言しており、新しい軍事行動は対イラク攻撃と連動したものだ」。

一方、明らかに「実戦」であるのに、当時、フィリピンでは「演習」と発表されていた。その“まやかし”の訳についても森記者はつづっていた。

フィリピンのアロヨ大統領広報官が03年2月20日、「米軍の役割は支援にとどまり、昨年の共同訓示訓練と性格は変わらない」(原文ママ)と説明したことを記した上で、「しかし、数時間後、国防総省当局者はワシントンで記者らに対し、『アロヨ大統領広報官の説明は間違っている。今回は演習ではなく軍事作戦だ』と強調した。これまでは米軍の武力行使は正当防衛に限られていたが、今回は米軍は自らの指揮体系のもとでの作戦も遂行できる。一方、アロヨ大統領広報官の説明は、米軍の関与が強まることに反発するフィリピン世論に配慮するものとみられる」。

過激派組織への「先制攻撃」ともとれる米国、フィリピン両政府の対応は、結局のところ一般市民を恐怖と混乱の中に陥れた。

その後、日本も2015年、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法を成立させた後に、米軍とフィリピン軍の合同演習に自衛隊が加わっていくのだが、中国が一方的に管轄権を主張する南シナ海の問題に加えて、ミンダナオでのテロリスト掃討作戦への日本の軍事作戦参加も期待されているように思えてならない。

ここまでは序章として、メディアの報道を引用するなどしてミンダナオで起きている戦争の背景を説明してきた。次からは、実際に現地でどのように子供たちの救済活動をしていったかを、具体的に書いていきたい。

プロフィル

まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。