利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(75) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「私」的な「公」を正す「公共」

現実の「公」権力の中枢に「私」的利益が跋扈(ばっこ)するという事態が垣間見られる以上、それを掣肘(せいちゅう)して正すためには、「人々=民」が「公共」の観点から現実を直視して考え、行動する以外ない。リップマンはこの「公共」の意見がメディアに操作されたり、「ステレオタイプ」に流されたりする危険に警告を発したが、「公共哲学」という良識に支えられれば、「公共」の意見はまさしく「人々=公共」の利益や善のために働く。

このような「公共」は、「公=権力」に操作されないような、自律した価値観・世界観に支えられて可能になる。リップマンが超越的な「公共哲学」の意義を強調したように、その拠(よ)り所となりうるのが宗教的・精神的ないし倫理的な思想だ。

素朴に言えば、「公」権力がその縁者や周辺の人々の「私」的権益を図っている時に、「それは道義に反している」と感じる倫理的感性こそが、本来の「公共」を再生させるのである。リップマンの思想は、今日の「徳義共生主義」(コミュニタリアニズム)の淵源(えんげん)でもある。「人々=民」における徳義ないし道義の感覚が瑞々(みずみず)しく湧き上がって「公共」を再生させることに期待したい。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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