共生へ――現代に伝える神道のこころ(22) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部教授)
邪気を退け延命長寿を祈る白馬神事
また、神と馬との関係性を示すものに、一月七日に大阪の住吉大社で行われる「白馬(あおうま)神事」がある。『万葉集』4494番の歌に「水鳥の鴨羽の色の青馬(あをうま)を今日見る人は限(かぎり)無しといふ」(大伴家持)と詠(うた)われるように、この神事は年初に白毛または葦毛(あしげ)の馬を見ると邪気を祓(はら)い、延命長寿になるという信仰にちなむものだ。宮中でも奈良時代から「白馬節会(あおうまのせちえ)」という名称で行われていた。同社では、午前十一時に神馬白雪号が二名の神職、馬をひく神馬守とともに第一本宮前まで出でた後、斎主による祝詞奏上があり、神馬守の介添にて白雪号が第一本宮に拝礼する。その後、第二本宮から第四本宮までを白雪号がそれぞれ拝した上で、第一本宮の周囲を三匝(さんそう:三回廻=めぐ=る)し、第四本宮の周囲を一匝して、第一本宮へと戻り拝礼、退出する。かつては春の七草にあたる七種菜を用いた饗膳もあったが、現在は途絶している。白毛の神馬白雪号を一目見て邪気を退け、無病息災を願う人々、あるいはこの日に授与される竹駒守を求める人々で賑わう正月恒例の特殊神事である。住吉大社のほか、賀茂別雷神社や鹿島神宮(茨城県)などでも名称や内容は若干異なるが、同種の神事が行われている。なお、住吉大社では、白河上皇や源頼朝なども神馬を奉献した記録があり、昭和初期まで同社の神馬が飼育されていた大阪市東住吉区山坂一丁目に神馬塚が建立され、祭礼で活躍した歴代の神馬が祀(まつ)られている。
今回、牛についてはほとんど言及できなかったが、菅原道真を祀る全国の天満宮では牛が神使となっている。天満宮以外にも岡山県津山市の中山神社のように、各地の神社では、境内や参道脇に農業の守護神として牛の銅像や石像が奉納されている場合も多い。人々の社会生活を助ける貴重な動物である馬や牛の有り難さに感謝しつつ、神道のみならず、今後も人々の宗教的信仰と動物との関係性を探ってみたいものである。
プロフィル
ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より准教授、22年4月より現職。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。
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