利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(64) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

ネガティブな政治の批判という民主主義的役割

上記のような分岐点に至っているのに、気づかない人々が多い原因はメディアとともに一部の野党にもある。例えば「野党は批判ばかり」というような嘲(あざけ)りに耳を貸して、野党第一党が「批判より提案」というような方針を衆議院選挙後に採用したことも、人々が問題点に気づくのを困難にしてしまった。ネガティブな現象が起こっているのならば、それを正面から批判して人々に知らせるように努めるのが、民主主義における野党の当然の責務である。

この連載で「善因善果、悪因悪果」について述べたが、政治においては政策の結果が出るのに時間がかかることが多いから、因果関係が見えにくいことがある。ところが長期政権が続いていたので、政策の帰結が明らかになってきた。「アベノミクス」の結果、日本銀行が多くの国債を購入しており、今、海外の金利上昇に合わせて金利を上げようとすると、不景気や、利払いによる日銀の債務超過などを引き起こす危険が懸念される。そこで低金利を維持する結果、円が安くなり、急激な物価高が起こっている。よって、民の生活困窮の主因は、この経済政策にある。私は「アベノミクス」を「幻想経済」(金融操作によって順調であるように見せかけている経済)と呼んで警鐘を鳴らしてきたが、残念ながら、その帰結が人々の生活を脅かす段階に入ってしまった。多くの人々にこの因果関係を知らせるのも、政治的論戦の重要な役割だ。

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