現代を見つめて(67) 地球の非常事態 文・石井光太(作家)

地球の非常事態

先ごろ、イギリスで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。これに参加した環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん(18)が、次のような言葉を発した。

「会合では、政治家や権力者が私たちの未来を真剣に考えるふりや気候変動で困っている人を心配するふりをしているだけ。あの会合から変化が生まれることはない。人と自然と地球からの搾取はもうたくさん」

気候変動を食い止めるために、全世界が温室効果ガスの大幅な削減をしなければならないのは自明だ。にもかかわらず、各国は自らの利益ばかりを優先し、現実から目を背け、問題を先送りしようとしている。グレタさんはそれを痛烈に批判したのだ。

振り返れば、世界の環境問題は百年以上前から同じことをくり返してきた。日本とて同じだ。

日本の環境問題と聞いて思いつくのは四大公害病だろう。その一つ、富山県で起きたイタイイタイ病は、鉱山から川へ排出された汚染物質「カドミウム」が原因で起きたものだ。一九一〇年代から地域住民の間に多数の犠牲者が出ていたが、被害者がいくら声を上げても、企業はずっと関連性を否定してきた。

結果、裁判で敗訴して和解が行われたのは一九七〇年代になってからだ。実に半世紀以上も解決を先送りしてきたことで、膨大な犠牲者が出たのだ。

かつて欧米で発覚した公害問題も、途上国で現在進行形で起きている公害問題も、これと同じ構造をはらんでいる。企業が利益を優先するあまり汚染が拡大し、取り返しのつかない事態を引き起こしたのだ。

現在の気候変動問題は、そのグローバル版だと言って差し支えないだろう。一企業ではなく、世界の国々や企業が寄ってたかって自らの利益を優先して解決を先送りにし、地球を壊している。その先にあるのは、地球規模の取り返しのつかない悲劇だ。

世界の政治家や経営者の暴走は止まらず、グレタさんの声に耳を傾けようとしない。ならば、その国や企業の構成者である私たちは何を決断し、どう動かなければならないのか。

グレタさんの訴えは、私たち自身にも投げかけられているのである。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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