利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(55) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

自由とポジティブな政治のビジョン

野党4党は、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」という市民団体の提案を介して、憲法・コロナ対策・格差是正・エネルギー・ジェンダー平等・行政の透明化の6項目を柱とする政策合意に調印した(9月8日)。2006年前後に私は、右翼的改憲を回避するために選挙協力などの「平和への結集」の必要性を主張し、憲政や立憲の概念を現実の政治において生かすように思想的に提起した。当時は左翼政党がその種の要請に耳を貸さなかったが、立憲の概念を冠する党が結成されて野党第一党となり、過去9年に及ぶ強権的政治の弊害を目の当たりにしてようやく結集が実現したわけだ。長い時間がかかって多大な犠牲が生じてしまったものの、上記の理念が現実化した。強権政治に対して、自由や民主主義を守ることほど重要なことはないから、この目的のための高貴な努力を称えたい。

もっとも、この結集には思想的にはリベラリズムの色彩が濃く、基本的にはネガティブな強権的政治への批判と対抗を基軸にしている。「徳義共生主義(コミュニタリアニズム)」の観点からすれば、これらに加えて、ポジティブな政治のビジョンをイメージ豊かに提示して人々に希望と活力を与えることが必要だ。

いま、大多数の国民がもっとも悩んでいることは何だろうか。それはもちろん、コロナ禍であり、これを一刻も早く払拭する政治の到来を人々は待ち望んでいる。この切なる声に応えて生命や安全を確保するのが、政治の目的たる共通善である。であるならば、生命を守ることを政治の最上位の目的として掲げ、無辜の民の死に追悼の意を表し、これ以上の犠牲を出さないためにコロナ対策の抜本的転換を衷心から訴えることこそが、「公共善の政治」における一丁目一番地の政策でなければならない。

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