利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(47) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
新年における「明」――福寿をもたらす新しい心理学
でも、新年を寿(ことほ)ぐことも重要だ。危機を乗り越えるための鍵として私は、徳義共生主義(コミュニタリアニズム)という政治哲学を提起している。さらにこれを現実化するために、ポジティブ心理学という新しい心理学を発展させようとしており、期せずして緊急事態宣言の直後に、『ポジティブ心理学――科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社選書メチエ)を刊行した。
これは、個々人も人々も幸せになるための科学的心理学である。従来の心理学は、どちらかと言えば、精神的な病をはじめとするネガティブな心理的状態から回復するための研究が主眼だったのに対し、1998年当時のアメリカ心理学会会長が、これからは健全ないし幸福な人々の心理も研究する必要性があるという提案を行い、それから一気に世界的に発展した。健康や幸福な人々、成功者たちの心理を統計的に研究した結果、どのような要件があればこのようなプラスの状況になる可能性が高まるかということが科学的に分かったからだ。
つまり、この心理学は「福寿」への方法を示すのである。これは、多くの人々がもっとも望むものだから、その知識を知りたくなるのは当然だ。巷(ちまた)には幸福や成功のための実用書が山のようにあるが、玉石混淆(ぎょくせきこんこう)だ。それに対して、この心理学は学問的にそのための道を解明しており、信頼性がある。この観点からコロナ禍や緊急事態宣言下で健やかに過ごすための方法について、連載38回(2020年4月20日更新)に書いたから、改めてぜひ参考にしてほしい。