利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(40) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

祈りと行動により、人々と国家に徳義の再生を

国法や正義に背き近代国家が崩壊する――そうしたリスクが高まり、断崖絶壁の淵にまで来たものの、日本は辛うじて踏みとどまったように見える。歴史的大寺院の呼び掛けなどに応えた人々の真剣な祈りが届いたのかもしれない。

護国の祈りは、往々にして誤解されがちなように、為政者が権力を保持するためのものではない。正しい法に反した不正な政治のために天災地変が頻発している時には、政治を改め、必要ならば為政者を交代させて、正法や正義に基づいた善き政治を実現させ、国家を守り、その繁栄を実現することを願うものだ。

「護国三部経」には、そのような文句が含まれている。たとえば「正法を用いず、慚愧(ざんき)しない臣下を任用して、暴虐で濁り乱れ、民を虐げる時には、私は王を斥(しりぞ)け、賢く有能な人を召して王位に変わらせる」(『妙見菩薩陀羅尼経』)という。力強い言葉だ。でも、民主国家においては、祈りとともに人々が立ち上がり行動しなければ、これを現実化して、国法を守り、正法や正義を実現することはできない。

前回、聖徳太子や聖武天皇が大疫病の後で新国家を建設したという故事を挙げた。仏教徒は言うに及ばず、そうでない日本人にとっても、これらは誇るべき歴史的大志だろう。私たちは、それに似た歴史的地点に回帰した。それらを範として理想国家を築くまでの道のりはまだ遠い。それでも、その希望を抱いて、美徳と正義、つまり徳義をまずは人々の心に、そして国家にも甦らせようではないか。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など