現代を見つめて(34) SNSと闇市場 文・石井光太(作家)

SNSと闇市場

ここ二~三年でカワウソの密輸が急増している。

日本の動物好きの人たちの間でカワウソブームが沸き起こったのは、テレビ番組がきっかけだった。最初は動物を扱ったバラエティー番組がカワウソを取り上げ、その後、有名なユーチューバーがカワウソの動画を投稿。かわいいと評判になり、一躍人気に火がついた。

しかし、日本ではカワウソはほぼ絶滅しており、海外から輸入するには面倒な国の手続きを経なければならない。そこで反社会組織と目されるグループが、東南アジアの闇市場で一匹三万円で買って日本に密輸し、ペットショップで百三十万円~百五十万円で売っているのだ。

反社会組織が金のにおいを嗅ぎつけ、法の網をかいくぐって儲(もう)けようとするのは常套(じょうとう)手段だ。まだ目が開かない子カワウソたちを手荷物に隠して密輸する際、半分以上が窒息死しているという。

問題は、なぜ日本でカワウソブームが起きたのかという点だ。

ブームを支えているのは、インターネットの住人たちだ。ユーチューブやインスタグラムには次々とカワウソの画像がアップされ、大勢の人がそれを視聴してかわいいと絶賛しているのだ。

私が会った飼い主の男性はフリーターだった。都内の安いアパートの生活臭のしない部屋で、カワウソを飼いながら、毎日のようにSNSに画像をアップしていた。「いいね」を押してもらうことが喜びだという。

ここには、飼い主の孤独が垣間見える。社会に居場所がなく、ネットで注目を浴びることで自尊心を得ようとする。よくある犬や猫ではなく、百万円以上も出してカワウソを買っているのは称賛を得やすいからだろう。

SNSはたしかに孤独を紛らわしてくれる。だが、その結果、希少なカワウソの密輸が横行し、高額な利益が反社会組織に流れている実態がある。

日本では希少動物が定期的にブームになる。私たちは珍しく人懐っこい動物を目にすると、安易に「かわいい」と褒めたたえてしまうが、時としてそれが世の中の倫理を大きくゆがめていることに気がつくべきだろう。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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