おもかげを探して どんど晴れ(3) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)

「看取りがゴールになっていた」。看取りを経験されたご家族の中には、こんな思いを抱え、後悔されている方たちがいます。「本人の生きている時間をしっかり見ていなかったかもしれない」とか、「死を意識することは大切だけど、それが目的になってはいけなかった」といった思いを話してくださいます。そんなご家族の中から、自らの経験を他の方のために役立てたいと、地域の良きアドバイザーとして活躍されている方も増えてきました。

一方で、亡くなる方は、死を見つめて受け容(い)れるまでは当然とても苦しみ悩みますが、その時期を超えると大切な誰かのために、または後世のために何かを遺(のこ)そうとされる方が多くおられます。その思いに至るまでは、諦めるというよりも明らかに今を見る覚悟と底力を持って生きておられますから、お話を伺っていると、とても迫力があります。

「いつも自分の夢には、死んだ多くの友人や身内ばかりが出て来て、死んだ人たちからの何かしらのメッセージなのかなと思ったけれど、よく考えてみるとそれだけ自分が年を取ったということに気が付いた。亡くなった人たちの夢を見るたびに懐かしく癒やされて、その記憶に支えられて生きているのだ」。そう笑顔でお話ししてくださった、一人暮らしの80代の男性がいました。「亡くなる時は一人の可能性が高いから主治医に相談する」と、お話しされていました。自分の死後のことも考えられていたのです。

超高齢化社会に入り、一人暮らしのお年寄りも多いですから、誰の立ち合いもなく、亡くなる方が全国で増えています。死亡診断には原則として医師の診察が必要であると法律で定められていますから、一人ひっそり亡くなられた場合は、警察の現場検証と検視、医師の診断が行われています。

警察では、「この人は誰なのか」「いつ亡くなられたのか」「死に至った原因は何か」といったことを調べ、確定します。検視の間は、当然警察以外は立ち合えません。事件など、その死に問題がなければ、ご本人(遺体)は警察から帰ってきます。

自分の人生の最期のことは、家族はもちろんのこと、主治医や行政、法律家(土地や建物をどうするか含め)、宗教者など、自分の死後にお世話をしてもらえる信頼できるどなたかに相談し、可能なら依頼できると良いですね。生きている間は今まで通り、死後は誰かのお世話になる。そういう考えが個人にとっても、社会にとっても必要になっていると感じます。生きている間にできることは、たくさんあります。私の所にも、急激にそのような相談が増えており、話し合って安心して頂ける形を提供しています。

ゆかりのある人には、その死を通して、その方がどのように生きたかを見つめてほしいなと思います。私たちを含めた誰かが、縁のあった方の人生を物語として語り継いでくださいますように。

※タイトルにある「どんど晴れ」とは、どんなに空に暗雲が立ち込めても、そこには必ず一筋の光がさし、その光が少しずつ広がって、やがて真っ青な晴天になるんだよ、という意味です

プロフィル

ささはら・るいこ 1972年、北海道生まれ。株式会社「桜」代表取締役。これまでに復元納棺師として多くの人々を見送ってきた。全国で「いのちの授業」や技術講習会の講師としても活躍中。「シチズン・オブ・ザ・イヤー」、社会貢献支援財団社会貢献賞などを受賞。著書に『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)など。

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