おもかげを探して どんど晴れ(2) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)

画・笹原 留似子

おふくろの味

普段当たり前に作ってもらって食べているご飯が、想い出になる……。納棺の時間は、そのような思い出話に花が咲くことが多くあります。

ある日、お母さんを亡くした子どもたちから連絡を頂いて、納棺のために伺いました。

そのお母さんには3人のお子さんがいて、一番下の娘さんは小学生でした。

「お母さんのご飯、もう食べられないんだね」。涙をポロポロ流しながら、彼女はポツリとつぶやきました。

私は言いました。「お母さんの味を覚えていたら、それをまねて、何度も作ってみてもいいんじゃない? うまくいったら、お供えをして『お母さん、味を見て!』って、声かけてみてもいいんじゃない?」と。

すると、その女の子は、「でもね、お母さんがいつも作っていた、お母さんが大好きだったおかずがあるんだけど、私、あれ、苦手」と思い出し笑いをしました。

2人のお姉さんも「同じく」と笑みをこぼしました。そして、みんなが一斉に大笑い。

私が「ぜひ、食べてみたい!」と言うと、子どもたちは「絶対、やめた方がいい!」と笑顔で返します。

そしてまた、大笑い。お母さんのお母さんも笑みをこらえて言いました。「本人に、聞こえてるよ!」。

子どもたちは「お母さん、ごめーん! あれ以外は、全部ごはん、大好きだから!」と声をそろえました。

良いことも、そうでないことも、普段からこんなふうにみんなでいろいろ語り合うご家族だったんだなぁと感じました。お母さんが家族だんらんの中心になって、話に花が咲くことは、死を迎えたからといってなくなるわけではありません。生きている時はもちろん、亡くなった後も、親子という関係性は変わらずに続いていくのだと教えてもらいました。

この日、思い出のそのおかずをみんなで作って、棺(ひつぎ)に入れました。そして、一人ずつお母さんにキスをして、お手紙を入れ、それから、いつもお母さんの読んでいた本も入れてあげて、お気に入りの上着を着せてお別れをしました。

棺のふたを閉める時、「『味が違うぞ!』って、起きて来そう。いや、でも、きっと『おいしいよ』って、言ってくれるね」と優しく語った娘さんの涙が、お母さんの顔に落ちました。

【次ページ:相手の歩んできた人生と向き合う】