利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(11) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
初詣やお盆、クリスマスの公共的意義
このように考えてみると、初詣やお盆などの法事、祭礼には、公共的スピリチュアリティに関わるという意義がある。慣習や儀礼だと思っている人も少なくないだろうが、それを通じて霊性や精神性を自然に涵養(かんよう)するという意味があるのだ。
神道や仏教だけではなく、一神教とされるキリスト教でも、同じような行事がある。たとえば元旦の数日前にはクリスマスがある。日本人の多くは、キリスト教徒でなくとも、プレゼントを交換したりしてその雰囲気を楽しむ。イエス・キリストの降誕を祝う祭りで、サンタクロースは、聖ニコラウスが起源とされる。実際の誕生日は分からないから、もともとはキリスト教以前の冬至の祭の日だろうと言われている。
キリスト教圏ではクリスマスには、主に家族と過ごして、プレゼントを渡して「愛」を表現する。その時にはキリスト教の物語や精神を思い出す。愛こそは、キリスト教の中心的な教えだからである。この祭りが世界に広がって日本でも親しまれるようになり、一つの宗教を超えた公共的スピリチュアリティが生まれたことになる。
もっとも、日本ではあまり宗教的な教えは意識しない人が多いかもしれない。バレンタインデーに誓われるような男女のロマンチックな愛が突出してクリスマスのイメージを形成しているようだ。異性愛も愛の一つだから悪いというわけではないが、普遍的な愛も想起する方が公共的スピリチュアリティの行事としての意義が増えるだろう。
教会のような宗教的施設に行かなくとも、こういった公共的行事に関わり、そのスピリチュアルな精神に触れれば、そこには意味がある。大事なことは、それによって宗教性や精神性を再認識することだ。
翻って同じことは神道や仏教にも言える。初詣をはじめ神社や仏閣に行く時に、清き明き心を思い出しただろうか。法事に行く時に、心を込めて供養しているだろうか。こういった気持ちで関わる時にこそ、これらの行事は単なる習慣を超えて、公共的スピリチュアリティの有意義な祭礼となるのだ。
プロフィル
こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。
利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割