『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(9) 文・小倉広(経営コンサルタント)

自分の行動をどのようにするかは、相手の課題ではなく自分の課題です。自分の行動の結果を相手がどのように受けとめるかは相手の課題です。このように「課題の分離」をすれば、相手を全面的に無視するのではなく、かといって、相手の好き嫌いに全面的に服従するのでもない、程よい距離感がつかめるようになるでしょう。

アドラー心理学の前提として押さえておくべき「課題の分離」。これを神学者のラインホールド・ニーバーは以下のような言葉で適切に伝えてくれています。

「神よ。我に、変えられるものを変える勇気と、変えられないものを受け容れる忍耐力と、両者の違いを見極める知恵を与えたまえ」

そして、これと同じ意味で素敵な東洋のことわざがあります。

「人事を尽くして天命を待つ」

天命の部分にまで手出し口出しをしても無駄なこと。まずは自分の課題にベストを尽くし、後はそっと神に委ねる。その謙虚さが、自らの幸せと他者の幸せを運んでくるのではないでしょうか。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。