『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(9) 文・小倉広(経営コンサルタント)
対人関係の課題は過干渉にあり
アルフレッド・アドラーは「人生の課題はすべて対人関係の課題である」と言いました。私は、さらに一つ付け加えたいと思います。
「対人関係の課題はすべて過干渉の課題である」と。
親が子どもに「勉強しなさい」と言う。アドラー心理学ではこれを過干渉である、と捉えます。本来、勉強するかどうかは子どもの課題。勉強するメリット、デメリットを受け取るのは親ではなく、子どもです。その子どもの課題に対して親が土足で踏み込む。だから人間関係が壊れてしまう。そう考えるのです。
そうではなく、子どもの決定権を尊重する。助言をしたいのであれば、相手の課題に踏み込まず、自分の課題の範疇(はんちゅう)で伝えるのです。
「お父(母)さんは、高校くらい出ておいた方が、あなたのためになると思うよ。でも、あなたの人生、あなたが決めなさい。お父(母)さんは、あなたがどのような決定をしてもずっと応援し続けますよ」
これが過干渉ではない関わり、アドラー心理学でいうところの「課題の分離」ができている状態です。
同様に、相手に過剰な反応をしないことも重要です。たとえば、相手が私を好きになるか嫌いになるかは、私の課題ではなく、相手の課題です。ですから、たとえ嫌われても、過剰に反応しないこと。これも課題の分離です。具体的に言うならば、たとえ嫌われても、自分が必ずしも悪いとは限らない。全員から好かれることは不可能である、と悟り、たまたま相性の問題であると、サラリと受け流すことです。
しかし、だからといって、相手の言い分を無視するのも、もったいない。「きっかけにさせてもらう」くらいでいいのではないでしょうか。つまり、相手から嫌われたことをきっかけにして、自分の立ち居振る舞いを見直し、変更した方がいいと思えば変更するのです。