利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(8) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
本当の希望
とはいえ、絶望する必要はないようだ。この「見解」は、そういった悪循環から脱出する可能性を示してくれているからだ。「因果を断ち切り、世界を異なる果報に導く」ためには、敵か味方かの二項対立ではなく、北朝鮮を含めすべての国民の平安を心から「祈り」、「真に対話」し、「行動」することが必要だというのだ。
そして選挙があるので、「日本の進路」は「有権者一人ひとりの選択」にかかっているという。野党に大激動が生じたが、こういったことが生じるのも、戦争や民主主義の危機といった深刻な事態が生じている結果である。
各選挙区における立候補者の顔ぶれや所属政党もこれまでとは大きく違っているから、選挙での「投票行動」を行う際にも、どう投票するのか、一人ひとりが真心込めて祈りつつお互いに対話をして考えなければならないだろう。どのような候補者や政党に投票することが、戦争を回避して平和を保つために、そして専制化の危険に対して立憲主義や民主主義を復活させるために有意義なのか、を。
こういった祈り・対話・行動によって、「因果」が「めぐる」ことを回避できる――私は仏教には素人だから、このような解釈は正しくないかもしれない。それでも、このような可能性を宗教者が示してくれると、本当の「希望」はここにあるのかもしれないと感じる。このような呼び掛けが功を奏して、国民全体の大運動になれば、平和への希望が確かに広がっていくだろう。日本中、さらには世界にも広く「祈りと対話と行動」のうねりが広がっていくことを、まさしく心から祈りたい。
プロフィル
こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。
利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割