時の流れの彼方へ 受け継がれる“アッシジの精神” ――世界平和祈願の日40周年

40周年を迎えた「世界平和祈願の日」。教皇が27日の閉会式にビデオメッセージを寄せた
東西の冷戦期にありながらも、バチカンでは“赤い国から来た教皇”が生まれ、ソ連ではゴルバチョフ政権がペレストロイカ(改革)やグラスノスチ(情報公開)を打ち出していた1986年。鉄のカーテンの向こう側にあった、教皇ヨハネ・パウロ2世の故国ポーランドでは、自主管理労組「連帯」が台頭し、教皇と共に「東西冷戦の壁」の崩壊へ向けて胎動し始めていた。
世界に「刷新」の風が吹き渡る中、その新風の立役者であったヨハネ・パウロ2世は同年、世界の諸宗教指導者に呼びかけ、中央イタリアの聖都アッシジで「世界平和祈願の日」を開催すると公表した。歴史的な世界状況の中で下された、世界宗教史における画期的な決断だった。第2バチカン公会議で提唱されながらも、カトリック教会内部ではいまだ反対の声の強かった諸宗教対話。世界で平和のための諸宗教対話を展開していたのは、「世界宗教者平和会議」(WCRP/RfP)のみという状況だった。
同年10月27日のアッシジは、寒かった。吹きさらす寒風に挑戦するかのごとく、世界の諸宗教指導者たちは、冷戦を終結させるのは対話であると信じ、神仏からの贈り物である世界平和を希(ねが)いながら、断食した。立正佼成会からは、庭野日敬会長(当時)の名代として庭野日鑛次代会長(同)が参加していた。しかし、89年に東西を隔てる壁が崩壊しても、信じられていた世界平和は到来することはなく、2001年には米国同時多発テロが発生。文明の衝突が叫ばれるようになった。さらに、22年にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界では国際法を無視し、戦争を国際問題の解決のために使う風潮が、急速に広がりつつある。
悪化する世界情勢の中、40年にわたり「アッシジの精神」を守り続けてきたのが、聖エジディオ共同体が毎年、欧州の各都市で主催している「世界諸宗教者平和の集い」と、天台宗が中心となって日本で行われている「比叡山宗教サミット」だ。アッシジの精神の風が世界に吹き始めてから40周年を迎えた今年、『武装せず、武装を解く』をテーマに10月25日から27日にかけて、聖エジディオ共同体とバチカン諸宗教対話省による記念行事が開催された。世界53カ国から384人の宗教者、政治指導者らが参集した。本会から、庭野光祥次代会長と和田惠久巳総務部長が出席した。
25日、アッシジの町を見下ろす山麓にあるウンブリア州立見本市の会議場で開催された40周年記念会議の開会式には、イタリアのマッタレッラ大統領がメッセージを寄せ、「私たちは、蹂躙(じゅうりん)できない人間の尊厳が、政治と諸国家の行動の規範、そして、再び認知、尊重されるべき国際法の基盤になることを、必要としている」とアピールした。
聖エジディオ共同体創設者のアンドレア・リカルディ教授は、各国から集った諸宗教指導者に対する歓迎のスピーチに立ち、同共同体がアッシジの精神を欧州の各都市で継承するために主催してきた集会の中で、1989年の東西の壁崩壊の直前にポーランドのワルシャワで開かれた「第3回世界諸宗教者平和の集い」を回想。老齢ながらポーランドに赴き、「アッシジの源泉から大きな潮流が沸き上がった」とスピーチした天台宗の山田惠諦猊下を偲(しの)んた。ワルシャワ市内の大広場を埋め尽くした大群衆は、弟子に体を支えられながらスピーチに立つ山田猊下に万雷の拍手を贈った。また、リカルディ教授は、世界の「新しい権力者」が新たな技術を用いて人々を服従させようとする中、「信仰を持つ男女一人ひとりは、大きな経済的資源も武器も持たない非武装者」だが、「信仰生活の中には、世界を変革することのできる強力な力が宿っている」と指摘した。
この後、各国の宗教者、政治家、学術研究者らが次々にスピーチに立った。この中で、フランスのラビ長(ユダヤ教)であるハイム・コルシア師は、「勝利は、相手を屈服させることではなく、二つの民が共に立ち上がることを可能にすることだ」と強調した。ウクライナ戦争にまつわる人道問題に関する教皇特使を務めるマテオ・ズッピ枢機卿は、「戦争の前で私たちは、中立であることはできない。武装せず、武装を解いた、アッシジの聖フランシスコのように、平和を選択しよう」と呼びかけ、国連改革の推進と対話による国際問題の平和的解決を訴えた。
また、インドネシアのナサルディン・ウマール宗教相(ジャカルタのイスティクラル・モスクの大イマーム)は、「一人の人間の生命を救うことは人類を救うことであると、イスラーム教の聖典が教えている」と前置きしながら、「地球を破壊しながら、平和について話し合うことはできない」と主張し、世界平和と環境問題の結びつきをアピールした。さらに、自身が世界モスク・イマーム国際評議会(International Grand Imams Conference=IGIC)の議長に選出されたことに言及したウマール宗教相は、インドネシアで開かれた今年度の同評議会の総会において、「今までは、モスクが世界から逃避して静かに祈る場所だった」とする一方、「これからは、愛徳、環境保全運動、世界平和構築の場としていく」、画期的な「ジャカルタ合意」を採択したと報告した。
最後に登壇した杉谷義純・天台宗妙法院門跡門主(世界宗教者平和会議=WCRP/RfP日本委員会会長)は、「40年前、アッシジの精神が西洋だけではなく、東洋においても、強力に吹き始めた」とし、「広島と長崎への原爆投下を含む第二次世界大戦の悲劇を鮮明に記憶していた山田恵諦・天台座主が、日本へアッシジの精神を運んだ」と語った。アッシジの精神が記憶に残らず、人々が分かち合った旅が終わりを告げ、共通の努力と友愛が散る可能性があったにもかかわらず、「今もこうしてアッシジに集うことで、私たち自身がさらに努力を続け、この道を歩んでいこうという力を授けてくれる。西洋においても、東洋においても」と、参集者に呼びかけた。
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