【大仏師・前田昌宏さん】心を映す仏さま 仏像彫刻教室で心安らぐひとときを

彫刻刀を手に、人々が真剣な面持ちで木を彫り出していく。月2回、京都市の浄土宗大本山清浄華院で開かれている仏像彫刻教室だ。講師の前田昌宏師は中学生の時、自坊の薬師如来像が盗難に遭ったことをきっかけに、盗まれた如来像を自ら彫ると決心し、仏師を志した。現在は仏像の制作や修復、海外での展示活動に取り組む傍ら、京都や神戸を中心に数カ寺で仏像彫刻教室の講師を務める。19年にわたる教室での活動を振り返り、これまでの歩みや仏像彫刻を通して伝えたい思いを伺った。
ご縁を仏さまに導かれて
――仏像彫刻教室を始めたきっかけは?
仏師として駆け出しだった2001年、インドのブッダガヤに建立された仏心寺の御本尊となる釈迦牟尼仏を、ボランティアで制作する機会を頂きました。当時の私は、トラックの運転手をして生計を立てながら仏師として修行を重ねていました。ボランティアでの仏像制作をきっかけに、仏心寺建立に関わった方々とのご縁が生まれ、その中で神戸市にある浄土宗極楽寺の古本肇滋住職と知り合いました。古本住職から、「檀家(だんか)さん向けに仏像彫刻教室を開きたいから、講師をやってほしい」と声をかけて頂いたのが始まりです。
当初は、檀家の皆さんが常に手元に置いておけて、最期を迎える時には棺(ひつぎ)に納めて頂ける持仏を彫ることが目的でした。そのため教室では、手に乗るサイズで、頭が大きめのかわいらしいお地蔵さま、阿弥陀さまを彫ることにしました。私自身、人に教えるのは初めてで試行錯誤の連続でしたが、古本住職が制作工程を写真に撮って資料にまとめてくださるなど、支えてくださいました。回数を重ねるうち、口コミや門前のポスターで受講者も増えていき、今では関西を中心にたくさんの方に通って頂いています。
――教室は、受講者の方にとってどのような時間になっていますか?
生徒さんからは、仏さまを彫る時間は「集中する時間」だとよく言われます。子どもの頃は、何かに夢中になって時間を忘れることがありましたが、大人になるにつれてそうした時間は少なくなっていきます。仏さまを彫っている間は雑念が消え、自然と没頭できる。教室が終わると「もう終わりですか」と皆さん口を揃(そろ)えて言われます。
ある男性は、病気になり、将来への不安や悩みを抱えて教室に来られました。家にいると病気のことを考えてしまって怖かったそうですが、「仏さまを彫っている間は病気のことを忘れられる」と話され、今では毎日のように仏さまを彫られています。以前、その方が彫った親指大のお地蔵さまを私にくださいました。病気への不安を抱えながら教室に来られた方が、仏さまを彫る時間を通して少しずつ前を向いて過ごされるようになったことを思うと、教室で過ごす時間へのお礼に贈ってくださったのかなと思います。心の依りどころとなるような場所を求めて来られ、教室で穏やかな時間を過ごして頂けるのは、本当にうれしいです。
また、教室では机を並べてみんなが一緒に作業するため、制作の合間に自然と会話が生まれます。私自身も教室を始めた当初、初めてのことに戸惑いながらも、生徒さんと話し、触れ合うのが非常に楽しく感じられました。最初は知らない人同士でも一緒に仏さまを彫るうちに、少しずつ言葉を交わすようになります。仏さまを彫ることもですが、教室に来て、仲間と共に取り組むことも、楽しみの一つになっているのだと思います。





