【ユニセフ教育専門官・大平健二さん】紛争下にあるイエメンの子どもたちに心身のケアと教育支援を

2015年3月から内戦が続くイエメンでは、政府側と反政府側との対立に加え、周辺国の軍事介入や武装勢力の横暴により、住宅や学校、病院などが破壊された。多数の民間人や子どもが犠牲となり、難民や国内避難民が発生している。また、国民の多くが食糧不足によって深刻な栄養不良に陥り、水道などのインフラが破壊され衛生状態も悪化。コレラの感染拡大に歯止めがかからない状態が続いている。14年11月から、国連児童基金(ユニセフ)イエメン事務所の教育専門官として、学校教育に関する支援活動を続けてきた大平健二さんに、イエメンの子どもたちの現状やユニセフの活動について聞いた。

宗派間対立で混乱 国民に対する暴力

――イエメンの現状は?

アラビア半島の最南端に位置するイエメンは、アラブ諸国の中で最貧国の一つに数えられ、高い失業率と貧困に悩まされています。

2016年4月26日、大きな被害を受けたタイズ市内の病院の内部 ©UNICEF/UN026945/Basha

2011年ごろから北アフリカのチュニジアで民主化運動が起こると、30年以上の独裁政権が続くイエメンでも、当時の大統領であったサレハ氏の退陣を求める運動が広がりました。その後にサレハ氏は大統領職を退いたものの、かつて攻撃の対象としていた反政府側にあった武装勢力のフーシ派と手を結び、14年9月に首都・サヌアを占拠します。これに対し、15年3月26日、前副大統領のハディ氏が大統領として権勢を振るう政府側からの要請を受けたサウジアラビア主導の連合軍によって、サヌアなどへの空爆が開始されたことで、現在までに建物の破壊や住民が犠牲になるなど甚大な被害が発生しています。サヌアは、11世紀以前の建物が立ち並ぶ、世界遺産に登録されている街です。また、アルカイダ系やイスラーム国(IS)などの武装勢力が国内で支配地域を拡大させ、内戦終結の兆しは見えていません。

イエメンの内戦は、イスラーム・スンニ派のサウジアラビアが支援する政府側に対して、イスラーム・シーア派のイランが支援するフーシ派と、これに協働する反政府側という構図の宗派間の対立です。ただ実態は、新旧大統領である両氏を中心とした一握りの上層部が引き起こした混乱といえます。

住民の間では、宗教的な対立はありません。実際に、両派の人たちが隣同士で暮らしていても、争いは起きません。それなのに、このような混乱に国民が巻き込まれて犠牲になるのは、とても悲劇的なことだと思います。

2016年5月23日、紛争で壊滅的な被害を受けたタイズ市内のタイズ高校の教室 ©UNICEF/UN026941/Basha

これまでに、1万人以上の民間人が命を落とし、そのうち1500人以上が子どもでした。子どもの負傷者は2000人を超え、少なくとも89の病院と186の学校が地上戦で攻撃されました。その影響で、200万人以上の国内避難民が発生し、数万人がジブチに難民として滞在しています。にもかかわらず、イエメンの難民問題は世界からほとんど注目されません。多くの難民が欧州各国に流入して大きなニュースとなっているシリアと違い、イエメンは西と南に海、東に砂漠、北にサウジアラビアとの国境があり、国外に逃れることが困難な状況です。さらに、国連職員以外は国内に入れないため、報道もされにくい現状があるのです。

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