【ユニセフ教育専門官・大平健二さん】紛争下にあるイエメンの子どもたちに心身のケアと教育支援を

内戦停止を強く訴え 必要な援助は迅速に

――イエメンの子どもたちは?

イエメンでは紛争が起きる前から、貧困などの理由により、周辺国に比べて就学率が低く、児童が労働に従事する割合が高い傾向にありました。また、政府側や反政府側、武装勢力を問わず、多くの子どもが徴兵されてきました。その数は定かではありませんが、私たちユニセフの職員などが現場で確認しただけでも、今年1月の時点で、各地の検問所に1249人の少年兵がいました。その上、紛争によって、およそ1400校が空爆で全半壊の被害を受け、170校が避難所として使われたため、学校に通えない子どもがピーク時で350万人もいたのです。これはイエメン国内の学齢期人口の半数に相当し、現在も推定で200万人に上ります。

子どもたちは毎日、水を求めて危険な旅に出ている。家族のために十分な水を持ち帰るため、工夫を凝らして水を運ぶ子どもたちも。この子どもたちは、自分たちで作った“台車”を使って自宅まで水を運んでいる。 ©UNICEF/UNI196757/Mahyoob

避難所には、貯蔵されている食糧を狙って武装集団が襲ってきます。また、トラックで食糧や生活物資を学校の倉庫に搬入していたところを、上空からドローン(無人航空機)で監視され、武器を持ち込んでいると誤解されて攻撃を受けたこともありました。

このような状況でも、ユニセフは子どもたちに学ぶ機会を提供したいとの願いから、教室用のテントや通学バッグ、文房具の提供のほか、砲撃を受けた校舎の修復、試験のサポート、また学校での心のケアなどを行ってきました。

――ほかにはどんな支援を行ってきましたか

教育支援の一環として、学校で行ってきた「平和構築や暴力緩和の要素を教育に取り入れるプログラム」(Peace Building Education and Advocacy=PBEA)があります。そもそもこのプログラムは、民主化運動による混乱がエジプトやリビアで起きていた時期に、イエメンでも同様の事態になることを恐れ、紛争勃発前に始めていました。昨年6月に終了したのですが、この取り組みは国の未来を左右する重要な事業と位置付けています。

このプログラムは、「暴力はいけない」ということを学校でしっかりと伝え、平和の重要性を学ぶための取り組みです。教員に対し研修を実施し、子どもたちが平和についての詩を作ったり絵を描いたりするほか、人形劇やビデオ教材を使った啓発活動などを行います。例えば、皆で平和の象徴のハトを描きながら、その時に感じたことなどを発表するのです。プログラムはここまでですが、さらにその後、平和の大切さを学んだ生徒や教師が、周辺の学校に出張授業に行くなど、当初、想定していなかった広がりを見せており、大きな成果があったと思っています。

タイズの子どもにやさしい空間では、学用品の提供や心のケアを支援している
©UNICEF/UN026948/Mahyoub

先ほど、住民の間で宗教的な争いは起きていないと述べました。だからこそ、為政者同士の対立が飛び火して、住民の心の中に争いの感情が生じることを防がなければなりません。これから先、プログラムの中にある平和の思想が次世代にも引き継がれていくことを願っています。

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