人間中心のAI規制に関する公文書に署名を求めるバチカン(海外通信・バチカン支局)

ローマ教皇庁生命科学アカデミーは2020年、人工知能(AI)に関して、「人間個人と全人類に奉仕」することを前提とし、「人間の人格を尊重することによって、個々人が技術の発展を享受でき、より大きな利益のみを追求せず、また職場で人間に置き換わらないようなAI」であることを求める公文書を作成した。

そして、さまざまな国際組織、政府、企業に対し、人間を中心としたデジタル刷新と技術改革を促進していくための責任を共有するよう訴え、公文書への署名運動を展開。同アカデミーのヴィンチェンツォ・パリア院長(大司教)、マイクロソフト社のブラッド・スミス副会長、IBM執行副社長(当時)のジョン・ケリー氏、国連食糧農業機関(FAO)の屈冬玉(チュー・ドンユィ)事務局長、イタリアのパオラ・ピザノ・技術刷新とデジタルへの移行担当相によって署名された。

今年4月24日には、バチカンで、世界最大のコンピューターネットワーク機器開発会社であるシスコシステムズ社のチャック・ロビンズ社長が、同30日には、英国国教会の最高指導者であるジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教が署名した。

この「AIに対する倫理的アプローチ」を訴えるバチカンの公文書は、「AI倫理に関するローマからの呼びかけ」と呼ばれ、「AIシステムは、人間と人間の住む環境に奉仕し、保護することを考慮して、設計、実行されなければならない」と冒頭で明示している。

2番目に、「AIの刷新を通して世界を変革することは、より若い世代のためであり、彼らと共に未来の構築を計画することを意味する」と強調。「教育への万人共通のアクセスは、連帯と公正の原則によって達成されなければならない」と示し、人間中心と環境保護の原則に沿った「AI教育」の重要性を説いている。

最後に、「人類と地球に奉仕するAIの発展は、より弱く、恵まれない人々を守り、自然環境を保護するさまざまな規制と原則を反映しなければならない」と呼びかけ、六つの倫理的な実践原則を主張している。


1.透明性(全ての人に理解できる)
2.包摂(誰もが利益を享受できる)
3.責任(機械を管理できる人間の責任)
4.公正(偏見の排除)
5.信頼性(AIシステムは、信頼を基盤として作動されるべき)
6.安全とプライバシーの尊重

また、バチカンは、「世界の諸宗教は、発展の中核である人間と、われわれの『共通の家』(自然環境)に対する尊重を説く」と指摘する。この視点から、ローマ教皇庁生命科学アカデミーは、「AIに関する発展は、諸宗教という視点からも対処されなければならない」と訴える。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)